第4章 spring memory④
「仕事も早い、酔いのペースも早い北村さんはよそ見できる余裕もあるんだね」
ぎくぅっと肩が震える。
「そ、そんなことないし・・・」
くるりと振り向き、私は国見くんを見上げる。国見くんはこないだの飲み会で私の様子がおかしい事にいち早く気づき、わんこそば日本酒をストップさせて、一次会で逃がしてタクシー乗り場まで送ってくれたという大変素晴らしい活躍を見せてくれたらしい。飲み会後の出社の時にそれを聞き、腰が折れるくらい頭を下げたのは言うまでもない。
国見くんは無気力そうな瞳を少しだけ細めて、笑った。
「冗談だよ。そんなに及川さんが気になるなら、会ってくれば?うちのスター選手なんだし」
「そ、それこそ冗談だよ。誰があんな人の・・・「あ、おーい!」
私たちの会話を遮るように、及川さんは歩み寄ってくる。それはそれは爽やかな笑顔で。
「お疲れ様です、及川さん」
「お疲れ〜っ、お、何?りおってば国見ちゃんと仲良いの?」
「りお・・・?」
ちょ、いきなり下の名前で呼ぶのはやめてくんないかな?疑問符めっちゃ浮かんでるし、国見くんの頭に。一緒に住んでること、まだ言ってないのに。
「あーそうそう!私たち、いとこ同士なの!」
ぐっと及川さんの腕を掴んで指を指す。
「へ。そうだったの?」
「うん、お母さん同士が姉妹でねっ」
ふうん、と興味あるのかないのか読めない顔で、国見くんは私たちを交互に見てる。私は、及川さんを至近距離で見上げ、
よ、け、い、な、こ、と、言、わ、な、い、で、よ!
と言う念を送り続けた。そんなこともろともしませーんとでも言うかのように、及川さんは自身の腕を掴む私の手を取り、それから耳元で囁いた。
「ね、今日さ・・・」
甘い声が、耳元をくすぐる。じんと体が熱くなる・・・
「エビフライでよろしく★」
囁いたのは、今晩のおかずのリクエストだった。
「・・・・・・・・・」
何でいつも頼むものがそんなお子様なのか、別にいいけど。
「わかった」
「まじ?うっひょーい、今からの練習も、俄然やる気出んね〜!」
子どもみたいに喜ぶ及川さん。その眩しいくらいの笑顔に、自然と口元が緩んでしまう。
「んじゃ、国見ちゃん、ガサツな子だけどこれからもりおのことよろしくね!」
「ガサツは余計だし!」