第30章 epilogue
「だから俺は胸を張って、バレー選手の及川として外へ行けた。あいつが俺に信頼と安心をくれたからね・・・」
「なるほどな。まぁ、りおくらいのやつじゃないとお前のバレー馬鹿っぷりやナルシスト具合分かってやれねぇだろうしな」
「ひっどいな岩ちゃん!」
「それぐらい良い奴だったことだ。お前が一番分かってんだろ」
岩ちゃんに言われると、より一層嬉しいって思う。
でも本当に、いい女だと思うんだよね。
「海外に行くのはいいが、余所で女作ったらぶっ飛ばすぞ」
「あったりまえじゃん!毎日テレビ電話してるし、通訳という名のお目付け役の国見ちゃんが毎回付いてるし、そんなのするつもりもないよ〜だ!」
「国見がいんなら安心だな」
「そんな俺って軽くないよ!もう!」
「冗談だ・・・」
岩ちゃんは可笑しそうに笑ってる。つられて俺も笑えてくる。
こんな風に屈託なく笑えるの、久しぶりだなぁ・・・
「ねぇ、岩ちゃん。俺、初めて結婚する時、夫婦ってお互いを想い合う関係だって思ってた。それが当たり前で幸せなことって疑わなかった。
でも、当たり前の幸せって、本当はどこにもないんだよね」
俺はそれを探して、見つけて、失くした・・・
その心の傷が、
また誰かを愛する勇気に変われたのは・・・
りおのおかえりがあったから・・・。
「もう一度、俺に愛を教えてくれたりおを・・・俺は生涯かけて幸せにするって・・・6年前の今日誓ったんだよね」
「ってことは、今日お前ら結婚記念日か」
「ふふーん、実はそうなんですよ♪」
すると岩ちゃんはバツが悪そうに呟いた。
「じゃあ益々俺いらねーな」
「えー、祝ってくれる人は多い方がいいじゃん」
「つくづくお前はうざ川だな。目の前でいちゃつかれる俺の身になってみろ」
「りおは"人前じゃ"ガード硬いからね。でもそんな俺とこれからも相棒でいてくれるよね?」
「俺とりおがいねーとお前いつまた悪の道に走るかわかんねーからな」
「悪の道って言い方!」
気心知れた岩ちゃんとそんなことを言い合う内に、茜色に染まる見慣れた住宅街の先に、
その愛しい姿を見つけた・・・