第30章 epilogue
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田んぼの見える夕暮れ坂を登りながら、田舎の心地よさを感じる
「あーやっぱり日本の方が落ち着くなぁ」
「そりゃそうだろ、お前の故郷なんだし。それにあいつもいるしな・・・」
緑深い山に、綺麗な川に、それに囲まれる俺たちの小さな町・・・
海外にはない故郷の落ち着きに頬が緩む。
「つか、今だから聞くが、いいか?」
「ん?なに?」
隣を歩く岩ちゃんは真っ直ぐ前を向いたまま口を開いた。
「お前が初めてイタリアへ短期移籍して以来、こっちのチームに戻っても・・・遠征で海外によく行くようになったんだってな」
「そうだね、俺が言い出したからね。チームのスキルアップとして海外との練習試合を多くしたいって」
「それは知ってっけどよ。お前がよく、家をあけてバレーに専念する決心がついたなって思ってよ」
あぁ、岩ちゃんの言いたいことがわかる・・・
岩ちゃんは、昔からの俺を・・・俺よりずっとよく知ってるから・・・
「岩ちゃんってほんと、俺のこと好きだよね」
「ぶん殴るぞ、俺は・・・」
「はいはい、分かってるって。・・・前の嫁のことで引きずってないか心配してくれてるんだよね」
「・・・・・・・・・」
沈黙が肯定をつくる。
つくづく俺は、良い幼馴染を持ったなって思うよ。
「確かにあの頃の俺が、今の俺・・・全日本に選ばれたり、遠征で海外や国内あちこちを飛び回る俺を見たらびっくりするだろうね。
でも、大丈夫だよ。帰ってきたら俺の居場所が無くなっちゃってるんじゃないかなんて不安・・・とっくに無くなってるよ」
だって俺には・・・あいつがいてくれるから。
あいつの・・・
「りおの"おかえり"があるから」
りおがまだ独身で、居候としてうちに来た日から、
本当に色々あったけど、いつもあいつは俺にその言葉をくれた。
どんなにヘロヘロになって帰ってきても、
心がぼろぼろに傷ついて帰ってきても、
その一言で満たされていった。
俺の帰る場所はここにあると、
俺の生きる価値を証明してくれていたんだ。