第4章 spring memory④
《spring memory④》
ーーー・・・
及川さんは私の料理をとても気に入ってくれた。正直言うと、とても嬉しかった。そりゃあそうじゃん。お詫びって言っても、誰かにご飯作るってことは、その誰かが喜んでくれるように作るってこと。
私、まだ及川さんのこと、全然知らないのに、それでも好きな物作って喜んでもらいたかったから・・・及川さんが食べてくれるまでは、ドキドキだった。でも、美味しい、美味しいって食べてくれる及川さんを見られて、正直ほっとした。ちゃんと、笑顔を見ることができたなあって。
それから、叔母さんが夜勤の時は、私が夜ご飯を作ることになった、というか・・・住まわせて貰って、何かお返しがしたかった私が立候補したのだ。
すると及川さんは、
「今日はりおご飯つくんの?俺、ハンバーグ食べたい!大根おろしのせたやつ!」
「今日はねぇ〜、中華食べたい!天津飯とか」
「デザートとかも作れんの?今度さ、ミルクレープ作ってよ、あれ俺めっちゃ好きなんだよねっ」
と、毎回のごとくリクエストしてくる。ほんと、ご飯のことになると子供みたいにあどけない顔をする。
はいはい、と一応リクエストに答えてはいるけど・・・
いざリクエスト通りのメニューを作ると、予想以上の反応を示して食べてくれるから・・・また作ってあげてもいいなって思うんだよね。
ご飯をきっかけに話す機会も増えて、家での気まずさとか、険悪感は無くなった。まぁ、ナルシストさとかは相変わらずイラッとするけどね、それも彼の個性と思えばスルーできた。
そんな日々が続いたある日、私の部署に、彼が訪ねてきたーーー・・・
「お疲れ様でーす!失礼しまーす!」
いつもの、部署中に響く声。資料作りに苦戦している私はちらりと顔を上げる。
(あ・・・及川さんだ・・・)
そっか、今日は木曜日・・・出社の日だ。
実業団の彼も、月曜と木曜の午前中は会社で雑用などの仕事をしている。たまに発注した荷物を届けにうちの部署に来ているけれど、今日もそんな感じの理由だろうな。相変わらず、彼の周りには人が集まる。それをぼんやり眺めていると、聞き慣れた上司の声が上から降ってきた。