第3章 spring memory③
ーーー・・・
もうすぐ時計が7時30分をさす頃、玄関の扉が開き、彼の帰ってくる気配がした。
足音が、リビングへ近づいてくる・・・
「ただいま〜って・・・あれ?」
ジャージ姿の及川さんは、リビングの入り口で目を丸くしていた。
ちょうど、今朝の私のように・・・
「お、おかえりなさい・・・」
ぎゅっと拳を握りしめて、テーブルに並んだ出来たての食事と共に彼を迎える。
ポテトサラダ、筑前煮、旬肴の煮付け、お吸い物、お浸し、ごはん・・・
THE和食なメニューは、意外にも及川さんが喜ぶラインナップの一つらしい。
「これ・・・もしかしてりおが・・・?」
「う、うん・・・一応・・・」
急に照れくさくなって目線をそらす。テーブル一つ挟んだ二人の間にできた沈黙、それを破ったのは・・・
「めっちゃ美味しそうじゃんっ、え、食べていいの?」
彼からだった・・・
「う、うん・・・」
すぐに椅子を引く音がして、席につくのがわかる。
昨日のお詫びとも言えずに、及川さんはそのまま箸を持つ。
「頂きま〜す!」
「どうぞ」
手を合わせて合掌し、私の返事を皮切りにご飯をつつき始めた。
「ん、うまっ!めっちゃ美味しい!!」
筑前煮を頬張りながら嬉嬉として声を漏らす及川。
「料理上手かったんだね、超うまいよ」
なんだか・・・意外だな。こんな・・・まるで子供のように、うまい、うまい、と笑顔で平らげてくれる。普段の彼からは想像つかないくらい・・・
あどけない笑顔がこぼれる、これが素の彼なのかな・・・?
いつもは意地悪でワガママで、加えてナルシストだけど・・・
酔っ払いの介抱してくれたり、こんなに美味しそうにご飯食べてくれたり・・・
嫌な人ってだけじゃ、ないのかもしれないな・・・なんて、彼のいい食べっぷりを見て、何となく思った。
「ん?なに?やっぱり俺のことかっこいいなって思った?」
「ばっかじゃないの・・・?」
普段はイラッとして終わるけれど、今日はその満足そうにご飯食べてくれる姿に免じて・・・許してあげようと思ったーーー・・・