第27章 Winter memory⑧
及川さんは、ふっと口端を上げて私の頭を撫でた。
優しく、時に、私の伸びた髪の毛を指に絡めて・・・
「りお・・・俺さ・・・」
及川さんは私を胸元に抱き寄せた。
「今のチームが進化し続けるには、何がいるんだろうって、・・・そのヒントは、俺が前に遠征に行って対戦したイタリアのチームにあるってずっと思ってたんだ。でもさ・・・ずっと決心がつかなかった・・・」
あ・・・、わかった・・・。
以前、前の奥さんに裏切られたことがあるから、だよね。
「俺は、チームの為にも・・・俺自身の成長の為にもこの道が必要だって分かってた。でも帰ってきて、また俺は全てを失ってしまうんじゃないかって、怖くて選べなかった・・・」
人の心の傷は、簡単に拭えるものじゃない・・・
「だけど・・・」
及川さんは両方の手で私の頬を包み込み、私と目線を合わせた。
その表情はとても穏やかで、強い気持ちが現れていた。
「だけどお前と出会えて・・・真正面から俺と向き合ってくれて、自分以外の人間のことを親身になって思いやってくれるお前と一緒に過ごしていく内に、俺の中で不安が少しずつ消えていった」
及川さん・・・
「お前に俺がどれだけ救われてきたか・・・本当に感謝してる」
滅多に言わない言葉に、私は涙が止まらない。
そんな風に思ってくれてたなんて知らない・・・
「願いが叶うなら、この先もずっと、隣にいてほしいって思うんだよね。でも今の俺じゃ・・・お前の隣に立つ男じゃないってのも、わかる。俺は、お前の為にも・・・強くなりたい。だからイタリアへ行くことにした」
まるで愛しいものに触れるような手つきで私の頬を撫で、もう片方の手は、私の手を握り、そこから彼の思いが温もりを通して伝わってくる。
これは・・・彼の本心だと、心が叫んでる。