第27章 Winter memory⑧
突然、彼の腕が伸びてきて、私の手を掴む。
ぐいっと引き寄せられて、バランスを崩した私の体を受け止める、及川さんの体。
優しく抱きしめられて・・・私は息をするのも忘れていた。
とくん・・・とくん・・・と規則正しく脈打つ彼の鼓動。
こんなに近くに感じる、及川さんの温もり・・・
「及・・・川さん?」
そう絞り出すように名前を呼ぶと、すぐ耳元で、
「りお・・・」
私の名前を呼ぶ、優しい声・・・。
「最後くらい・・・素直になりなよ。・・・お前が思ってること、全部言って」
その言葉に、私の堰き止めていた感情の蓋が外れて涙となって溢れた。
熱い涙が、後から後から溢れて、及川さんの肩口を濡らしていく・・・
「な・・・んで、黙ってたの・・・っ・・・。いきなり言うから、びっくりするじゃないっ」
震える声、漏れる嗚咽。でも言葉にして伝えたくて・・・私の行き場のなくなっていた感情をぶつけるのは、ここしかなくて。
「うん・・・」
「今までずっとここで・・・一緒に暮らしてたのに・・・っ、急に居なくなるなんて、寂しいじゃない・・・っ」
及川さんは抱きしめる腕を少し緩めて、私の顔を覗き込む。
そして、私の頭を引き寄せて、
額をコツンと合わせて目を閉じた・・・
「うん・・・あとは?」
今まで、聴いたことのないくらい、優しい声色で、
私の言葉を待ってくれた。
私はもう、この気持ちを、止めることができなくて・・・
「イタリアに行っても・・・、
大好きなままで、いいですか・・・っ?」
あぁ・・・だめだ。
止まらない。
こんなに、こんなに沢山彼への想いが溢れてる。
大嫌いから、気になる人へ、
気になる人から、好きな人へ、
好きな人から、愛しい人へ・・・
こんなにも私は貴方に恋をしてしまった。
これ以上好きになれないって所まで来てしまっていた。
もう他人に戻ることなんてできないよ。
だってあなたは、世界で一番大好きな人なんだから・・・