第27章 Winter memory⑧
《Winter memory⑧》
ーーー・・・
コンコン・・・
「りお、起きてる?」
「っ!」
うたた寝をしていた私はハッと顔を上げた。
時計を見ると11時過ぎ・・・もうこんな時間だったんだ。
「お、起きてる!」
私は布団から出て乱れた部屋着を直して、ドアの方へ歩いていく。
ガチャとノブを回すと、私を見下ろす彼の瞳と目が合った。
「お、おかえり・・・」
「ん、ただいま。寝てた?」
「うん、少し・・・」
「ふうん、ま、研修セミナー行ってたんだもんね、お疲れ」
ぽん、と不意に頭に乗せられた彼の手。温もりが伝わって、こくんと頷いた。
「ありがと・・・」
何か、久しぶりだな。
祝勝会以来まともに顔合わせてなかったから。
「もう、帰ってきたの?」
「ん。明日出発だからね。名残惜しいけど流石に酒残して行くわけにはいかないしさ」
明日・・・ほんとに明日からイタリアへ行っちゃうんだ・・・
「最後にりおの晩御飯食べれなかったのは、残念だけどね」
苦笑いを浮かべた及川さんに、私はふるふると首を振った。
「そんなの・・・また帰ってきたらいくらでも食べられるって」
「はは、そうだね・・・それまでお預け、かな・・・」
「うん・・・」
どうしよう。会話がぎこちない。
いつもなら、ぽんぽんと言葉が浮かんでくるのに・・・
「部屋、入ってもいい?少し話したい」
「・・・うん」
玄関に置いてあった彼の、イタリア行きのキャリーバッグを見たら・・・実感せずにはいられなくて。
私の部屋で向かいあって座ると、及川さんはバツが悪そうに頭をかいた。
「イタリアへ行くこと・・・言えなくてごめん。でも、俺ずっと、考えてたことなんだよね」
今ここに及川さんがいることも・・・当たり前じゃなくなる。
今夜で最後って・・・明日の夜には彼の姿が無いなんて考えるだけで
私は胸がきゅっと苦しかった。
だけどね、それじゃダメだよね。
「ううん。及川さんが決めたことなら、私・・・応援してるよ」
ちゃんと、笑顔で送り出してあげなくちゃね。
自分の気持ちをぐっと抑えて、私は必死に笑顔を作って見せた。
「頑張ってきてね」
それが私が彼にしてあげられる、最後のことだから・・・
「・・・ほんと、嘘が下手だよね」
え・・・?