第3章 spring memory③
でも、とにかく迷惑かけたんだし、この人に謝るのはちょっと癪だけど・・・
「迷惑かけて、ごめん・・・いたっ」
頭を下げると、またしてもズキンと頭が痛む。
あ〜こりゃあ、今日1日中この頭痛は収まんないだろうなぁ、トホホ〜と、思っているとぷっと吹き出す音がした。
「相当いい酒飲みすぎたんだね。いいな〜俺もそんな頭痛くなるくらい飲みたいよ」
む。人が苦しんでんの見て、笑ってるなぁ・・・
「ほらほら、そんな不機嫌そうな顔しないで、これ飲めば?」
私の表情を察して、及川さんは湯気の出た器をコトっとテーブルに置く。
「丁度出来た時に起きて良かったよ」
湯気の立ち込める器の中身は、しじみの味噌汁だった。
「これ・・・」
「飲み過ぎた次の日はこれでOK。朝一のスーパーで買ってきたんだ♪」
美味しそうな色の味噌汁の中に、小さなシジミがたっぷりと入っている。ネギをパラパラと入れて、箸を渡してくれる及川さん。
「これ、私が飲んでいいの・・・?」
「ん。君以外の二日酔いはここにいないからね」
嘘・・・ほんとに・・・?まだ半分戸惑いながらも私はテーブルに着く。
器を両手で持って、ちらりと彼を見上げる。
いつもと変わらない、にこにこした自信ありげな笑みを浮かべた彼を・・・
「・・・頂きます」
「はい、ドーゾ」
ひと口、火傷しないようにゆっくりと口に含む。
あ・・・これ・・・
「めちゃくちゃ美味しい・・・」
弱った(酒のせいだけど)体を労るような優しい味わいと温もりが沁みていく。
「本当に、美味しい、です・・・」
本当にこの人が作ったんだろうか。当たり前の事を聞くみたいだけど・・・
及川さんは向かいの席に腰を下ろして自身もしじみの味噌汁を口にする。
「ん〜やっぱりあそこのしじみいいの置いてんなぁ〜うまいっ」
そう言う及川さんの顔を、私は盗み見る。
全然覚えはないけど・・・
部屋まで運んでくれたり、上着かけてくれたり、ビニール袋置いててくれたり、お味噌汁作ってくれたり・・・
今までの彼のイメージからかけ離れた優しさに、少し感激を覚えた・・・