第25章 Winter memory⑥
鳴り止まない拍手と歓声の中、及川さんたちはエンドラインに整列する。初めに並んだ時の緊張感からは解放されて、心からの笑顔を浮かべている。
幾度となくここに並んで、強い選手たちと戦ってきた。きっと勝利した試合だけじゃなくて・・・負けの試合も沢山あったよね。
それでもここに並ばなくちゃいけなくて、その時に及川さんは誓った筈・・・
もう二度と、こんな悔しい気持ちでここに立たないって。
そして今、及川さんは最高の舞台で、最高の勝利を飾ってそこに立っている。
良かったね・・・本当、かっこよすぎるよ。
及川さんたちは対戦相手と握手したあと、監督が関係者にインタビューを受けている間、それぞれがダウンストレッチを始める。
みんなが輝かしい笑顔を浮かべている中・・・ふと気づくと、及川さんの姿が見当たらない。・・・あれ?さっきまであそこに座ってたのに・・・
不思議に思って辺りを見回すと・・・
「りお」
近くで、聞き覚えのある声が聞こえた。
「え?」
振り返ると、及川さんがタオルを肩にかけて私のいる客席に歩いてきた。その表情は、いつもの笑みを浮かべている・・・
日本一となった彼の姿は、悔しいけど、眩しくて今までで一番輝いて見えた。
「及川さんっ」
叩きすぎてへたれたバルーンスティックを両手に持って歩み寄ってきた及川さんに振った。
「お疲れ様!」
掛けたい言葉は沢山あったけど、とにかくこの言葉しか出なくて・・・私は溢れる涙を拭いながら、及川さんを見つめた。
「ぷっ、また泣いてるし」
可笑しそうに及川さんは吹き出した。
「そりゃあ、泣くでしょーよ!」
言われると余計に涙が出るのなんでだろう。
でも、心は及川さんと同じ、晴れやかだ。
「・・・ほんとにおめでとうっ」
そう泣き顔で笑ってみせると、及川さんは困ったように、笑ってくれた。
及川さんの後ろでは、沢山の人たちが勝利を讃えて拍手をしている
。その人たちを背後に、及川さんは口を開いた。
「ほんと、お前ってさ・・・」
不意に及川さんの左手が、伸びた・・・
私の頬に触れる、テーピングを巻いた指。
ボールを打ち込み、トスを何千本も上げてきた手は・・・
やがて私の頭の後ろに回り、ぐいっと引き寄せられたーーー・・・
え・・・?