第25章 Winter memory⑥
再びコートへと戻っていく及川さん。
一瞬見えた、その横顔は・・・
ーーー・・・笑っていた。
それはあの時、このあとの展開が予測できていたかのように、彼らしい笑みだった。
10ー14
ここからの奇跡みたいな展開を、私は忘れないだろうな・・・
相手のサーブをレシーブし、トスを上げ、それをエースの人が決めた。それも、三枚ブロックの上から、今日一番良いスパイクだった。
わぁっと会場が盛り上がる。
その熱気の中、こちらにサーブ権が回ってきた。
打つのは・・・
「及川さーん!ナイッサー!!」
普段あんなに無気力そうな国見くんがベンチから大声で叫ぶ。
それに応えるように、エンドラインから、頷く、ボールを持った及川さん。そう、サーブを打つのは及川さん。
迷いも、弱気の欠けらも無い。
真っ直ぐにコートを見据え、ボールを高く高く上げる。
綺麗なフォーム。繰り出すのは彼の代名詞のジャンプサーブ。
常に強気。相手の苦手な所に的確にボールは飛んでいき、レシーブする暇もなくノータッチエースでボールは落ちる。
「っしゃあ!」
及川さんがガッツポーズするのが見える。
もう1本、及川さんはサーブを打つ。
また、弾く。
これで13ー14。
心臓がうるさいくらい鳴り響く。
もう一点、もう一点!
今度のサーブは相手のリベロが来て拾われた、でも・・・大いに乱してる。
相手は三本目を攻撃にできずにチャンスボールが返ってきた。それを待ってたかのように6人で攻め返す。
迷わず及川さんのトスはエースに向かっていった。
応えるように、エースは腕を振り下ろす。
割れんばかりの音で相手コートに刺さるボール。
大きくハイタッチした及川さんたち。
凄い・・・ここで、四連続ポイント。
一気に追いついたよ。
しかし相手もやられっぱなしじゃない。
14ー14で同点になった今、相手も攻めるしかない。
及川さんのサーブを上げて、向こうのエースが打ち返してくる。それも上げて、こちらも打ち返す。
それは殴り合いのようで、私は息をするのも忘れてそのラリーの行く末を見守った。