第25章 Winter memory⑥
ーーー・・・
5セット目、
長い長いラリーの末点数は相手チームに入った。
これで10-13。
10点の方は及川さんのチーム。
13点・・・次に得点してマッチポイントを握るのは、対戦相手だった。
5セット目のスタートは、及川さんのチームは悪いわけじゃなかった。足も動いているし声も掛け合えている。だけど勝ちたいのは及川さんたちだけじゃない。対戦相手だって同じ気持ち。
その気持ちが流れを引き寄せてこの展開を作り出していた・・・
(まだ・・・終わりじゃない!)
再び笛の音が鳴って、サーブが打たれる。
レシーブして、及川さんが繋いでトスにする。
エースの人も疲労困憊の中、打ち込むけど、中々決まらない・・・!
逆に相手に切り返されて・・・リベロの人が大きく弾いた・・・!
その弾かれたボールは・・・監督たちの座るベンチを超えて・・・その後ろの私たちの客席へ・・・
そのボールを追いかけてきたのは、及川さんだった・・・
及川さんの手は、必死にボールへ伸ばすけれど、それはあと数センチ届かないまま・・・客席へとボールは落ちた。
及川さんは勢いのまま止まれずに私の目の前に上半身を大きく乗り出す形になった。
及川さんの髪から滴る汗が少しかかる。
荒い息、汗ばんだ体が目の前にあり、不意に、視線が交差した・・・
「!」
私たちがここに居るのを初めて気づいたように、及川さんは僅かに目を見開いた。
ボールは落ちた。これで10-14。相手はマッチポイント。
次のポイントが向こうに入れば、この試合は負ける。
だけど、今目の前にいるこの人の目は、何1つ諦めちゃいなかった。
うん。分かってる。
まだ勝負は終わってない。
この日のために、今までずっと練習してきたんだから。
見つめ合った、一秒にも満たない時間、
私は及川さんの言葉を思い出した・・・
"だけど俺は・・・どんなに点差が開いてたって諦めない。俺は・・・
俺の信じてるバレーを最後までやり遂げる・・・バレーは・・・"
「バレーは・・・」
自然と口が動く。
それを無造作に目で追ってくる及川さん。
「6人で強い方が強い!」
及川さんが言っていた言葉だ。
1人じゃ絶対勝てない。だけど6人いたら・・・
6人が勝負を諦めなければ・・・
「がんばれ!及川さん!」
私は背中を叩いて及川さんを送り出した。