第24章 Winter memory⑤
「・・・・・・・・・」
暫しの沈黙。
「・・・・・・社宅?」
ぽかんとした及川さんが声を漏らした。
「社宅って、こないだ新築にする為に取り壊してたところよね?」
「はい。それで、その新築の社宅が完成したんです。だから社宅希望する社員は手続きを進めないといけなくて・・・」
社宅ができた以上、私がこの家に住む理由は無くなる。
社宅希望者は今週中にも、色々と書類を書き上げなければならない。
泣いてる暇など、本当はないのだけれど・・・
「とりあえず鼻かみなよ、ほんと悲惨だから今の顔」
「徹!女の子にそういう酷いこと言っちゃ駄目でしょ!事実でもっ」
・・・叔母さんが一番酷いです。
及川さんが渡してくれたティッシュで思い切り鼻をかむと、私は二人に向き直った。
「短い間でしたが・・・お二人にはほんとに・・・」
「え、待って・・・社宅行く気なの?」
私が頭を下げようとした矢先、及川さんの声が私の言葉を遮った。
「え?」
私は目を丸くして及川さんを見た。
「別に社宅が出来たからって近所に住んでんのにわざわざ入る必要ないじゃん」
「そうよね。ピカピカ新築はいいかもしれないけど・・・新築特有の匂いもあるわよねぇ」
「あ〜それ、わかる。しかもうちより断然狭いよ?うちここら辺じゃ結構でかい家だし」
「そうよ。スーパーも駅もこっちからの方が近いしいいじゃない、ここで」
え?・・・え?
私は口々に話す親子を見た。
え、私、今、今までお世話になりましたって言おうとしたんだけど。この二人、私の話・・・き、い、て、な、い?
と言うより聞く気がない。
「えと・・・及川さん、叔母さん、私・・・」
「りおちゃんがいいなら、叔母さんこれからもりおちゃんと住みたいのよねぇ」
・・・・・・・・・え?
「い、いいんですか・・・?」
「ええ。だってりおちゃん可愛いし、家事も手伝ってくれるし本当に娘のように思ってるのよ叔母さん。美味しいご飯も毎日食べたいくらいっ」
叔母さんの笑みからは嘘は1つも感じなかった。
「可愛いはわかんないけど、確かにりおの作るご飯が無くなんのは痛いよね〜。お前が居たいなら、俺は賛成だけど?」
どうする?と、及川さんは試すように口角を上げた。