第22章 Winter memory③
「及川、うるせ。準備できたんならこっち来て野菜切れ」
「岩ちゃんまで、俺の扱い雑すぎるよ!」
キッチンから鬼の形相で顔を出した岩泉さんに怒られ、しゅんと肩を落とす及川さん。
久しぶりだな、こんな及川さん。
「りお・・・だっけか?」
「あ、はいっ」
茶髪の方・・・花巻さんに手招きされてついて行く。
「鍋とかの具材の準備は野郎二人がやってくれっから、こっちで俺たちはケーキのデコレーションしようぜ」
「はい!わ!綺麗に焼けてますね、スポンジ!」
テーブルの上には絵に書いたように上手に焼き上がったケーキのスポンジがあった。そして黒髪の猫っ毛の人、松川さんの手には既に泡立てられたホイップクリームの入ったボウルがあった。
「松川ん家の母ちゃんが焼いてくれたんだ。美味いんだぞ〜」
既に3層にカットされているそのスポンジを見ていると、バターナイフを渡される。
「ん。」
「あ、ありがとうございます、松川さん」
「女の子なら、こういうの好きだろ?」
花巻さんがスライスされた苺のお皿を持ってきた。
「はいっ、料理とかお菓子作りとか好きなんです。及川さんのお母さんの誕生日にもケーキを作ったりしたんですよ」
そう言うと、花巻さんはヒュウと口笛を吹いた。
「なるほどな!なら、安心して任せられんな」
「及川の母さんか、久々に会いたいな」
「俺らもよく飯食わせて貰ってたしなぁ。あ〜懐かし」
クリームをスポンジに塗りながら、昔を振り返るように言葉を漏らす花巻さんと松川さん。
「そうなんですか。叔母さんの作るご飯美味しいですよねっ」
「そうそ。で、キャラもおもしれーんだよな!」
不思議だなぁ。今日初めて会うのに同じ話題で盛り上がれるなんて。二人とも気さくな人だし、及川さんの周りはほんといい人で溢れてるなぁ。そう感じずにはいられない。
「東京から来たんだってな。もうこっちの生活には慣れたか?」
クリームを丁寧に広げながら、松川さんはそう尋ねてきた。
「そうですね。大分慣れてきたと思います」
「それは良かった。及川のやつに虐められたりしてないか?」
うっ・・・それは日常茶飯事にある。