第3章 spring memory③
「え、そんなに飲んだの?」
意外・・・。何か遠慮してあんまり飲まないイメージあんのに。
「んー?そんな飲んでないよ?日本酒とか、わんこそばみたいになってただけ〜」
「ちょ、わんこそばって・・・」
つまり、かなりの量を飲んだわけだ。学生の飲み会かよ。
大丈夫じゃないな、ほんと。
(ここまで帰ってこられたのが奇跡だよ・・・)
兎に角、これ以上のアルコール摂取は避けさせた方がいいから、俺はりおの手から缶ビールをひょいと取り上げる。まだ飲む気だったの、ほんと、驚くことばっかだな。
「あ〜っ!」
お気に入りのおもちゃを取られた子供みたいな顔をして俺を見上げる。
「返してっ、及川さんっ」
「ダ〜メ。これ以上飲んだら気分いい通り越すよ」
上目遣いで俺を見上げ、俺から缶ビールを奪い返そうとするりお。
「私のお酒ぇ〜」
「ちょ、あんま暴れないでって・・・わっ!」
俺の服をお構いなく掴み、よじ登るようにりおの体が迫ってくる。バランスを崩し、俺は床に尻餅をつく。高くあげた缶ビールだけは零れないようにして・・・。
「私の・・・さけ・・・」
俺の胸の辺りでもぞもぞと動く小動物の様なりお。
「ほんと、やめなって・・・」
こんなに至近距離まで迫ってくる彼女は、きっと今日だけだな。
触れ合う体が柔らかくて、熱くて・・・
(何か変な気起こしそうになるじゃん・・・)
一瞬よぎった男の本能的なものを、首を左右に振ることで遠のける。
「こーら、りお、いい子だから大人しくしなよね」
りおの両手首を掴んで制止する。
「何でもするからお酒を下しゃい・・・」
むにゃむにゃもごもごと、舌っ足らずな唇が言葉を紡いでる。どんだけ酒好きなんだよ!
「ダーメったら。そんなに我儘言ってると・・・」
くいっと顎を持ち上げ、目を細めてりおの潤んだ瞳を見つめる。
「また襲っちゃうよ、・・・いいの?」
すると、
ふにゃんとりおは笑ってみせた。
(やば・・・)
一瞬思考が停止した。その合間に、りおの顔が近づいて・・・
唇が触れそうな位に近づいて・・・
通り越して・・・
俺の腕の中に収まった。