第20章 Winter memory①
「ほんとに嬉しくない?」
及川さんは寝ている私に覆いかぶさるように手をついて、悪戯っぽく微笑んだ。
「熱出して会社休めるわ、昨日試合だったから今日は一日オフな俺を独り占めできるわ・・・超嬉しくない?」
出た。久々のナルシスト発言。
「会社の人に迷惑かかってるし、嬉しくないです・・・」
「ちょっと、及川さんの独り占めの話はスルーなの」
・・・及川さんたちのチームは先日今季のリーグが開幕した。リーグのある内は、元々量の少なかった仕事がもっと減り、一週間まるまる、バレー中心の生活になる。
火曜日から木曜日までは一日練習、金曜日は各地で試合をするのでその移動日、土日の試合を経て、月曜日は丸一日休養というサイクルになるらしい。
めっきり会社で及川さんの姿が見れなくなるのは仕方ないが、本業であるバレーの試合は頑張ってほしいな。
試合も、近辺でやることがあるなら見に行きたい、そう思っていたのに・・・
「ま。いいや。兎に角、お前は早く寝て熱下げること。いい?」
及川さんは体を起こして、ベッドに背中をついた。
「・・・ほっといても治ります」
「じゃあ無理しないこと。別に感染とかじゃないんだから、俺ここに居てもいいよね?」
「え・・・?」
及川さんはいつ持ってきていたのか、自身のノートパソコンを開き出した。
「お前が俺のこと、元気ないって言ったんでしょ?及川さんはこの通り、昨日の試合観てるから、お前はさっさと休みな」
・・・他の部屋でいるとまた私が心配するから、ここにいてくれるのかな・・・
「うん。・・・分かった」
彼がそばに居てくれると、安心する。
案外私って寂しがり屋かもしれない。
「じゃあ少し・・・休んでもいい?」
「どーぞ」
元々熱を出しているわけだから体は熱くて、眠気はすぐにやってきた。
ここ最近・・・本当に眠らなかったから・・・。
目を閉じても浮かぶのは彼の顔ばかり。
力になりたい・・・、
どうすればいいの・・・、
笑ってほしい・・・。
本当に私、及川さんのことばかり考えてる。
自分でも呆れちゃうくらいに。
「・・・りお」
「・・・ん・・・?」
とろとろと、半分夢の中へ足を踏み入れていた時、及川さんが背中越しに振り向いた。