第18章 Autumn memory④
《及川side》
ーーー・・・
言った通り、じいちゃんは俺たちのことは忘れているみたいだった。俺たちの名前を言っても、ピンと来てなくて、どこかずっと眠そうで・・・口元をもごもごと動かしている。
「私、おじいちゃんの部屋にお花生けてくるね!」
そう言ってお見舞い用に買った花を持ってりおは中庭を出ていった。
何かあったら教えてくださいって、スタッフの人も俺たちを残して出ていったし、穏やかな沈黙が俺たちを包んでいた。
(ちっちゃい頃は相撲の相手とかしてくれてたのになぁ・・・)
しわしわの手が車椅子の手すりに置かれていて、俺はそっとその手を握った。
一瞬ぴくりとしたけど、何も喋らない。
目もぼやけているみたいで殆ど見えてないみたいだ。
「・・・じいちゃん」
「ん?俺か?」
また閉じていた瞳を開いた。
声はしっかり届いてるみたいだ。
「ここ、どこかわかる?」
「・・・わかんねぇなぁ・・・」
だよね。予想以上に認知進んでるから、自分が今なんでここで暮らしてるかも、分かってないだろうな。
「奥さんって、どこにいんの?」
奥さん・・・俺たちのばあちゃんの事だ。
「嫁か?嫁なら・・・・・・家にいんじゃねぇか?」
・・・ばあちゃんが亡くなった事も、忘れてるんだな。それか家族が気を聞かせてその事を話してないか・・・。
知らなくていいことも、あるもんね。
「そっか・・・。じいちゃんはさ、奥さんとはどこで知り合ったの?」
「嫁とは・・・お見合いだったかなぁ・・・」
この手の認知症の人は、最新のことは忘れても昔の強い記憶は今も心に残ってると言う。だから俺は、そんな昔の話をしてみた。するとじいちゃんはすらすらと話してくれた。
「36くらいの歳にな、いい加減嫁取れって周りに言われて仕方なくやったんだよ。そしたらな、俺より10もしたのやつと見合いさせられたんだよ・・・」
じいちゃんはシワシワの手をすり合わせた。