第3章 spring memory③
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それから数日、自分の配属された部署の人間関係や、仕事内容にも少しずつ慣れだしてきた頃、私は与えられた書類の整理をしていた。あと数ヶ月もすれば、この書類自体を作るようになっているのかな、なんて思いながらちらりと時計を見る。
(あ・・・もうすぐお昼休みだ)
時計が指すのは11時40分。もう少し、もう少し。
それまでにこの書類の整理終わらせちゃおう、と思っていると、部屋の入口から一際元気の良い声が聞こえた。
「失礼しまーす、お疲れ様です!」
その声に部署中の視線が集まる。その視線ももろともしない、と言うように、大嫌いなアイツがそこにいた。
「おっ、及川くんじゃないかー!元気にやってるかい、バレーの方は」
そう言って、部長がニコニコしながら入口近くに立つ及川さんに歩み寄る。家で見るスウェット姿の彼しか知らなかったから、スーツを着ている姿は珍しい。そして、ちゃんと着こなしている辺りがムカつく。
「はい、頑張ってますよ。いつも応援ありがとうございます!」
と、爽やかな笑顔で答える及川さんに、わらわらと他の人も集まっていく光景を見て驚愕する。
え、なになに。みんな仕事は??
「そっか、月曜と木曜の午前中は出社するんだったね!これから練習?」
「相変わらず、かっこいいですね!身長伸びました?」
「こないだのリーグ見に行ったんですよー!うちの子がサインボール貰ったって、喜んでたの。ありがとうね!」
お姉さま方も、みーんな、彼に話しかける。そしてそれが当たり前のように笑顔で受け答えする及川さん。うちの会社の実業団チームに所属しているのは知っていたけど、これほどの人気を誇るとは・・・。
確かに、顔はかっこいいからね、顔は。顔だけは!
「なに一人で百面相してんの?北村さん」
すると後ろから冷めた声がして、はっと我に返る。後ろを振り返ると、無気力そうな瞳が、不思議なものを見るような目付きでこちらを見ている。
「や、別に・・・国見くんはあの輪の中に入らないの?」
私を見つめる男性・・・国見英くんは、一応同期であり私の直属の上司。高校卒業時からバレーの選手としてこの会社に入社したらしく、選手としては去年引退し、今年からは一職員として再入社したらしい。私と同い年ながら沢山、色んな上層部の仕事を任されている。