第17章 Autumn memory③
《Autumn memory③》
ーーー・・・
11月上旬。
「ね〜、及川さんどこ行くのかそろそろ教えてくれない〜?」
駅の改札を通り、時刻案内板を見上げていた及川さんの背中に向けて私は声をかけた。
昨日の夜も、今朝の車の中でも、同じ言葉を繰り返し言ったけれど、彼からの返事は決まって、
「ナイショ。」
人差し指を立てて唇にあてて、そう返ってくる。
あ、今この人、絶対キマッたって思ってるな。
事の始まりは、先週の及川さんの一言。
"来週の三連休、空けといて"
それだけを言ったっきり。後の詳細は何にも教えてくれないまま三連休初日、土曜日の朝を迎えた。
何をするのかと思っていると、及川さんがリビングで朝ごはんを食べ終わった私に向かっていった。
"2日泊まれる準備して、10時に家出るよ"
2日?旅行?
"どこ行くの?"
"ナイショ。"
兎に角、それ以上は何も言ってくれなくて、私は言われるままに二日分の泊まれる準備をした。
そして車で駅まで行き、冒頭のシーンに戻る。
もう、そろそろ教えてくれたっていいのに。
少し頬を膨らませていると、及川さんはにっと笑ってこっちを見た。
臙脂色のシャツに白いパンツ、ネイビーのジャケットを羽織った及川さんは、相変わらずスマートな着こなしで、悔しいけれどかっこいい。
「りお」
「へ?」
きょとんと及川さんを見上げると、額に何かの紙を押し付けられた。
「いった!」
キョンシーの如くビターンと貼られた紙は及川さんの手から離れると、ヒラヒラと私の目の前を舞った。慌てて私はその紙を両手で挟んで捕まえた。
パシッと両手の中に挟み込んだものを見ると、それは・・・
「新幹線・・・東京行き・・・?」
ここから、東京までの新幹線の乗車券だった。
私は状況の理解ができなくて切符と、及川さんを交互に見た。
すると、及川さんはスマホを弄りだし、誰かに電話をかけ始めた・・・
「あ、もしもし?徹で〜す。今日は宜しくお願いしますね」
誰にかけてるのかな。気になっていると、及川さんはスマホを私に渡してきた。
「ん。」
出ろって、事かな・・・?
私は恐る恐る受け取ったスマホを耳にあてる・・・
「も、もしもし?」