第16章 Autumn memory②
「なるほど、それは・・・前進と言うか、事件だね。あの人がそんなこと・・・」
流石の国見くんも顎に手を添えて、思考を巡らせていた。
及川さん・・・
いつも私より遅く起きて来るのに、私が起きる頃にはもう朝ごはんは作ってあるし、朝回す予定だった洗濯は干し終わってたりする。
私が朝ごはんを食べたら、いいよって言うのに食器は洗ってくれるし、さっき言ったように会社まで車で送ってくれる。
最近リーグ前で早く練習が終わる及川さんは、私が帰ってきたら既に家事を終わらせてくれている。
バレー選手だし、試合も近いし休んで欲しいのに・・・
「俺がしたいからしてるだけだよって一点張りで、私が負担になってる気がして・・・」
「なるほど・・・」
「それに、晩御飯は何食べたい?とか・・・やたら私の好物とか好きなキャラクターとか、色々聞いてくるの。もう急な展開に付いていけないよ〜」
国見くんは私の話を一通り聞くと、暫く黙った。
「でも。さ・・・」
そう、口を開いてくれた。
「いきなり優しくなったり・・・手厚くもてなしてくれて戸惑う気持ちもわかるけど、」
国見くんの形のいい唇が綺麗に弧を描く。
「男の気持ち的に、どうでもいいやつにそんなこと、しないと思うけど・・・?大人しく、甘えたら?」
「どうでもいいやつ・・・」
「・・・には、しないと思うよ?毎日あの及川さんが送ってくれるなんて想像できないし」
「そ、そうだよね。私も・・・びっくり・・・」
でも、やっぱり嬉しい気持ちが募る。
どんなことであれ、私のことを思ってしてくれている事が何よりも温かい。
「甘えちゃって・・・いいのかなぁ」
「って言ってる側から顔にやけてる」
「えっ!嘘!」
言われて慌てて頬肉を引っ張る。
クスリと隣で笑う声がした。
「ふっ・・・冗談だって」
国見くんは笑ってくれる。つられて私も、笑えてきた。
うん、及川さんが良いって言ってくれてるんだし、甘えてみようかな。折角の好意だし。
何だか恥ずかしいけど、照れくさいけど・・・
前とは違った風に、彼との距離が近づいた気がしたから・・・