第15章 Autumn memory①
「ねぇ、及川さん!」
私は及川さんにみかんを渡す。
「今度は何。だから、もう食べれないって」
「及川さんが食べるんじゃなくて私が食べるのっ」
明らかに嫌な顔する及川さんの手にみかんを乗せて、少し離れる。
「投げてっ!私それ、口でキャッチするの上手なんだ!」
私の隠れ特技でもある。あの、わんことかがフリスビー投げられてキャッチするあれみたいに、私結構、器用に口に入れられるんだ。
子供の頃はよくこれをして友達からすごいと言われ、一躍人気者になった。この歳になってあんまり披露する機会がなかったから・・・。
「1粒、投げてみて!」
及川さんはみかんと私を交互に見たあと、ひょいっと宙に投げた。
曇り空に舞う、オレンジの粒。
それは、吸い込まれるように、私の口の中へ・・・
パクッ
「んーー!美味しいっ」
「へぇ、すご」
口では棒読みだけど、表情は驚きを隠せてない。
へっへっへ〜見たか!って感じで私はもぐもぐとみかんを食べながら及川さんを向いた。
「見た?私の唯一の特技!」
「見たって・・・見て欲しくてしたんじゃん。それ、もっと遠い距離でもできんの?」
「うん!勿論!もっと距離取って大丈夫だよ!」
そう言うと及川さんは後ろを気にしながら私と距離をとった。
そして投げてと手で合図を送る。
「行くよ〜」
今度はもっと高く、及川さんがみかんを投げる。
でも、どんなに高くても、私の口の中へ・・・
パクッ
「・・・へぇ、食べ物のことになると素晴らしい才能発揮するんだね」
「ちょっと、人を食い意地張った人みたいに言わないでくれる?素直に褒めていいんだからね?」
もっと!と手を大きく広げる。
次第に及川さんも乗り気になってきたようで、リズミカルにみかんを次々と投げてきた。
パク、パク、パクッ・・・
「これラストだかんねー」
「いいよー!どーんと来い!」
今まで百発百中、パーフェクトできた。最後の1粒を、及川さんが投げる。
その時、タイミングよく風が吹いた。
あ、少し放物線を大きく描いてくる。
私は少し後ろへ下がった・・・その時、
ズルゥッ!!
「きゃっ!!」
ぬかるんだ部分を踏んで足が滑った。
落ちてきたみかんは何とか口に入ったけれど、体制が立て直せない。何とか踏ん張ると・・・、