第14章 summer memory⑨
俺は・・・
(俺さっき・・・何を言おうとしたんだ・・・)
さっきりおに告げようとした言葉は・・・想いの名前は・・・?
一体、何を・・・
「及川さん?」
「!」
りおの言葉が、俺を現実に引き戻す。りおは、俺がさっき言おうとした言葉は花火の打ち上がる音にかき消されて聞こえていなかったのか、きょとんとこちらを見ていた。
「いや、何でもない」
「そう?・・・ねぇ、すっごい花火綺麗だよ!」
りおは川の向こう側を指さす。
次々と打ち上がる花火の光が、りおの顔を色とりどりに照らしていく・・・
その色が変わる様はまるで・・・
「紫陽花みたいだよね・・・」
「え?」
「花火の色がさ、色んな色に変わるから・・・」
決してりおの横顔の色が変わっていくからなんて言えない。見つめてたのバレんじゃん。
「ああ、確かにそうかもねっ」
納得したように頷く。
「この浴衣の柄も、紫陽花なんだよ」
袖を手で持って柄を見せてくれる。うん、知ってる。
ピンクと薄紫色の紫陽花が綺麗に入ってるもんね。
「でもさ、りお、紫陽花の花言葉って知ってんの?」
俺にとっては・・・いやぁな意味合いの強い言葉だった気がする。
「うん、紫陽花には浮気とか、傲慢、無情って花言葉があるって叔母さんに、教えてもらったよ」
あー、そうそう、そんな感じの意味合いだ。
綺麗な花なのに、俺はその花を、好きにはなれないかもしれない・・・
「でもね?紫陽花は色や種類が沢山あるように、花言葉も他にも沢山あるんだってね!」
「へぇ・・・それは知らなかった」
花言葉なんて、滅多に調べないからそんなこと全然知らない。
「でね?叔母さんが、その花言葉が私にぴったりだって思うからこの浴衣にしようって、思ったんだって!」
母さんが・・・
「ふうん、どんな・・・?」
あのね、と、花火に照らされながらりおは言った。
りおの浴衣の紫陽花たちも、彩豊かに色づきながら・・・
「"元気な女性"、"一家団欒、家族の結び付き"、とか、あとは・・・"辛抱強い愛情"だったかな?それが、紫陽花の花言葉だよ」