第14章 summer memory⑨
ーーー・・・
ドンッ
「きゃっ、すみません!」
ほんと、浴衣は可愛いけど歩きづらい。こんな風にちょっと急いでる時は大股で歩けないし、そして今日は夏祭り、人も多いなぁ。これで肩がぶつかるの、何人目だろう。
両側に出店が立ち並ぶからほんと、歩くのが精一杯。私なんか下駄履いてたって小さいから、埋もれてしまう。
こういう時・・・及川さんの近くにいたら、彼の後ろを歩いて人にぶつからずに済むのにな。
きっと、女の子の扱いに慣れてるから、そういうエスコートなんかもしてくれそう。
・・・・・・・・・
(・・・奥さんとも、この祭り、行ったことあるのかな・・・)
及川さんの隣を歩けるのは、奥さんみたいな綺麗な人だけなのかも・・・
無駄な嫉妬心が心に渦巻く。嫉妬・・・なのかな?
私、及川さんの昔のことは全然知らないの、当たり前なのに・・・。
(あー、やめやめ!考えないっ)
首を左右に振って邪念を捨て去る。今は、早く携帯を取りに行って、及川さんと合流しなくちゃ!
・・・でも
(可愛い浴衣女子、いっぱいいるなぁ・・・)
すれ違う女の子たちは、みんなカラフルな浴衣で、髪の毛もちゃんとしていて・・・
私、叔母さんにきちんと着付けもヘアセットもメイクもして貰えて、柄じゃないけどお姫様みたいになれたなんて、考えてた。もしかしたら、及川さんも、少しは私のこと意識してくれるんじゃないかなって・・・
だけど私みたいな子、ここには、沢山いるんだよね。
この中から、私に差し伸べてくれる手なんて・・・
グイッ
「へ?」
「なに、してんの?」
嘘・・・