第14章 summer memory⑨
すっかり笑顔になってくれたトオルくんと一緒にたどり着いたのは救護所。ここで、怪我をした人の手当が出来るんだけど、膝を擦りむいたトオルくんは処置してもらう間ずっと私の手を握っていた。
痛いの怖いよね、私もちっちゃい頃、予防注射とか泣き喚いてたな。それに、トオルくんはママとはぐれちゃったみたいだし、ママも探さなくちゃね。
「この子、迷子ですか?」
丁寧に消毒し、大きめのガーゼを貼ってくれた後救護所の人が私たちに話しかけて来た。
「あ、そうなんです。トイレの近くにいたんですけど、怪我もしてたし先に手当てした方が良いかなって思って」
「そうでしたか。そしたら放送流して、お母さんを探しましょうか」
「それが1番早く見つかると思いますね」
ショッピングモールでよく流れるやつね。きっと、お母さんもトオルくんの事必死に探してるだろうし・・・
早くお母さんに会わせてあげたい。
あ・・・そう言えば、私及川さんに何も言わずに来ちゃったな。連絡、入れないと・・・と、巾着の中をごそごそと探した・・・
あ、れ・・・?
携帯が、無い・・・。
巾着の隅から隅まで手を動かしてみるけど、やっぱりない。
あれ〜、どこいっちゃったんだろう。
これじゃあ連絡取れないな・・・
最後に携帯を見たのは・・・どこだろう。
記憶を辿ってみる、と・・・
(あ・・・)
多分、トイレの手洗い場だ。あそこで、花火大会までの時間を見ていたから・・・あそこに置いてきちゃったんだ。きっと。
「これから迷子放送掛けますんで、もしあれでしたらお姉さんは、結構ですよ。この子はちゃんとお預かりしますんで」
救護所の人が、気をきかせてくれてそう言ってくれた。
でも、
「りお、行っちゃうの?」
無垢な瞳がそろりと私を見上げる。
私がいなくなったら、トオルくんは知らない場所で知らない人ばかりの所でお母さんを待たないといけなくなる。それを考えると胸が痛い。
「ううん、行かないよ。トオルくんのママが見つかるまで、一緒にいようね」
「ほんと?やったぁ!」
この子が無事にお母さんと会えてから、携帯を取りに行こう。
それまで及川さんと連絡取れなくなるけど、及川さんなら適当に時間潰しててくれる、よね・・・
「じゃあ、今からママが来るまで私と遊ぼっか!」