第14章 summer memory⑨
ーーー・・・
あーあ、やっちゃった・・・
今日は怒んないって決めてたのに・・・
トイレの手洗い場で、手を洗いながら、
私は及川さんの事を考えていた。
及川さんのさっきの言い方は、
珍しくてびっくりしたしムカついちゃったけど・・・
私もあんな言い捨てみたいなことしちゃったし、大人げなかったなぁって、こうして冷静になれば色々と落ち着いて物事を考えることが出来るのに・・・
一度火がついてしまうと・・・
それに及川さんに言われると、感情のコントロールが下手になる。
(でも、及川さんも及川さんだよね!私が及川さんのこと、す、好きって知ってる筈なのに、国見くんと付き合えとか・・・)
なんでそんなこと言ったのか、男心が全然わかんない!って・・・
はぁ、ダメだな。私。
もっと大人の女の人にならなくちゃ。
多少の冗談や嫌味も、ふふんって笑い飛ばせるような余裕のある人になりたい。
洗面所の鏡を見る・・・
そこに写っているのは、いつもとは違う、少し女の子っぽい自分・・・こんな姿を見せても、及川さんには見向きもされない・・・。
もっと心に余裕があって、確かな美貌があれば・・・
彼の目に、女として映ることが叶うのかな・・・
(やめよやめよ!考えるのはあと!今日はお祭りに来たんだし、うんと楽しまないとね!)
そう!今日は折角連れてきてくれたお祭りなんだし、切り替えて楽しもう!
ここから出たら、さっきは怒ってごめんねって謝って、それからりんご飴もたこ焼きも他のものも沢山食べ歩いて、最後は花火を見よう!
(よしっ)
私は手を叩いて気持ちを入れ直した。
そしてトイレを出ると・・・
「あれ・・・?」
トイレのそばに、男の子がうずくまってる。
膝を抱えて、泣いているのかな?肩が震えてる。
「ねぇ、僕・・・?」
「うっ、うっ、うぇっ」
・・・やっぱり、その子は泣いていた。幼稚園くらいの子なのかな・・・近くに親御さんの姿はなくて、もしかしたらはぐれちゃったのかも。
「僕・・・ねぇ、今ひとり?お母さんは?」
「ママ・・・ぼく、ママと、はぐれちゃった・・・っうぇ」
やっぱり。それにこの子、膝を擦りむいて怪我してる。
お母さんとはぐれちゃったし、膝は痛いし、今すっごく不安だろうな・・・