第14章 summer memory⑨
抓られた耳は僅かに赤くなってる。って言うか・・・
「及川さん、顔赤くない?」
若干及川さんの顔が赤くなっていることに気づく。
それに、余り目線も合わせてくれない・・・
「別に赤くなってないし!」
「いや、赤いよ、熱あるんじゃない?」
グイッと浴衣の袖口を引いてみる、と及川さんはばっと振りほどいた。
え・・・・・・
「だから赤くなってないって!」
そう言い放つ及川さんの顔はやっぱり赤いと思ったけれど、何だかムキになってるみたいだし、これ以上追及するのはやめておこうと思った。
振り払われた手が、少しだけ寂しいけれど、ゆっくりと引き戻す。
と・・・
「あれ?北村さん?」
聞き覚えのある声に振り向くと、そこには・・・
「国見くん!」
見慣れたセンター分けの髪に、紺色の浴衣に身を包んだ国見くんが立っていた。
「及川さん、さっきはお疲れ様でした」
国見くんは私たちに歩み寄ると、及川さんにペコッと頭を下げた。
「あら?国見ちゃん珍しいね、まだ残ってたんだ。祭りなんて興味ないって毎年帰ってんのに」
「今年からマネージャーやってるんで、サイン会とかの会場の片付けとかミーティングとかで残ってたんですよ。これから帰ります」
選手の人はすぐ解散出来るけど、スタッフの人はそうはいかないんだ、大変・・・
「大変だね、お疲れ様」
「別に大した仕事はしてないけどね。・・・それより北村さん、その浴衣・・・」
国見くんは無気力な瞳で私を頭からつま先までじっと見た。
「あ、これ?及川さんのお母さんがくれたものなのっ」
珍しく私に興味向けてくれている感じだったので、調子に乗って袖を持って柄が良く見えるようにする。
「へへへ、似合う?」
なーんてね・・・国見くんはそう言うのノーリアクショ・・・
「うん、可愛いと思う。似合ってるんじゃない?」
「っ!?」
さらりと返された言葉に、私も・・・及川さんですらも目を見開いている。
そんなあっさり褒めてくれるもんなの!?あの国見くんだよ!?
「っと〜、国見ちゃん、何か悪いもん食べた?」
「どういう意味よ、それ」
おずおずと国見くんに声をかける及川さんをキッと睨みつけた。