第14章 summer memory⑨
ーーー・・・
「あー・・・馬子にも衣装ってこの事かーって思ってさ」
まぁそんな淡い期待通りに行く訳もなく、案の定及川さんの口からはそんな言葉が出てきた。
「なによー、わかってますよーだっ」
いいんだけどね?分かりきってるから。
・・・でも、今日は、及川さんと出掛けられるし怒んない。
私は及川さんの姿を頭からつま先までマジマジと見る。
黒の浴衣・・・かっこいいな。悔しいけど、何着ても似合う。
「なーに、俺が浴衣似合ってんのに嫉妬してんの?悪いけどこればっかりは奪えない才能だからさ」
「何も言ってないし・・・」
どれだけかっこいい姿でいても及川さんは相変わらずだから・・・何だか勿体無いなーって思っちゃう。
残念なイケメンって及川さんのこと言うんだろうな・・・
「あ、今なんか失礼なこと考えてたでしょ?」
「別に考えてないからっ」
疑いの目を向けられてドキリとして首を振る。
ま、完璧過ぎないのが、及川さんのいいところだと思う。
「ふうん?ま、別にいいけど。それじゃ、そろそろ行く?」
及川さんは鳥居をくぐって、石段の上を指す。
そこは赤提灯の灯りと共に沢山の人が行き交っていて、出店も賑わっている。
及川さんからは似合ってるとか、あまり褒められなかったけど、そのお祭りの景色を見ると一気に気分が上がった。
「うんっ!」
下駄を鳴らして、私たちは石段を登り始めた。
ーーー・・・
「いっぱい出店もあるけど、りおは何食べたいの?」
「りんご飴!」
「ならあっちに・・・「あとたこ焼きに焼きそば、フランクフルトでしょ?かき氷に水飴も食べたいな!あ、チョコバナナも忘れちゃダメだよね!」
「・・・・・・・・・そんな食うの?」
食べたいものを指折り数えていると、明らかに引いた視線を送ってくる及川さんがいた。
「え?うん」
「食いすぎでしょ、ま、その分栄養が胸に行かないのがかわいそ・・・いででででっ」
及川さんの言葉が終わる前に、彼の耳をつねる。
ほーんと、余計なことばかりいうんだから。
「折角連れてきてくれたんだし、お祭りでしか食べられないもの沢山食べたいのっ」
「まぁ、ここら辺の祭りは今日で終わりだしね。満足いくまで楽しめば?あ、満腹になるまでか」