第12章 summer memory⑦
ーーー・・・
PM6時30分ぴったり。会社の駐車場に及川さんは車を持ってきてくれた。
「りお、国見ちゃんお疲れ〜!」
「お疲れ様。もう、会社では名前で呼ばないでって言ってるでしょ〜」
「お疲れ様です、及川さん、お願いしゃっす」
国見くんを助手席に座ってもらって、私は後ろの席に乗り込む。車内はクーラーが効いていて気持ちよかった。
そして、はい、と後ろからお弁当の包みを渡した。
「サンキュー!」
にこにことそれを受け取る及川さん、と、それを不思議そうに眺める国見くんにも、おにぎりを二つ渡す。
「国見くんも、良かったらどうぞ。及川さんのご飯が足りなかった用に作ったものだけど・・・明日はちゃんとしたお弁当作るね」
「ありがとう、頂きます。・・・うま。及川さん、いつもこんなん作ってもらってんですか」
「弁当は今日だけだけどねー。母さんが夜勤でいない時はりおが夜は作ってくれてるよ」
へぇ、と国見くんはおにぎりにかぶりつく。
国見くんは、及川さんが実家にいる"事情"を知っているらしく、気が楽だ。
「イイっすね。ご飯作ってくれる人いて・・・」
「料理の腕だけはいいからね〜。あとは全然女の子らしくないけど・・・っいた!」
「そんなこと言うなら、明日のお弁当作んないからね〜」
「嘘嘘嘘。冗談だって〜」
もう。相変わらず一言二言多いんだから。頬を膨らませる私を、国見くんが僅かに微笑みながら見ていることに気づいた。
(はっ、そうだ私、国見くんに及川さんが好きってこと言ってあるんだった〜)
途端に恥ずかしくなって俯く。
そんな私の事情なんて全く知らない及川さんは気にせずに私の作ったお弁当をパクパクと食べていく・・・
「よしっ、ごちそーさん!」
「はやっ、もう食べたの?」
「うん、今日も美味かったよありがとね」
「え・・・・・・」
「さっ、腹ごしらえもしたし、いっきまーすかぁ!」
と、早速ハンドルを切って車を発車させる及川さん。
・・・・・・なーんかさ、
"美味しかったよありがとね"
・・・なんて。
(そういうことさらっと言っちゃうの、ずるいなぁ・・・)
ちょっと天然ホストみたいなのあるよね、及川さんって。
なんて少し緩みそうな口元を隠すのを見たのは・・・
ミラー越しの国見くんだけだった。