第11章 summer memory⑥
そう話すと、菅さんは嬉しそうに目尻を下げた。
「そうだべ?宮城いいんだよな〜山あるし落ち着くし。まぁ俺はこっちの便利さとか色々知っちゃったから、まだ戻るつもりは無いんだけど」
「彼女さんもこっちにいますしね。最近は仲良くやってますか?」
菅さんは大学時代からずっと同い年の人と付き合っていて、もう結構な年数になるんじゃないかな?
「うん。仲良いかな。来年から同棲する事にしたんだ。で、もうその年には籍も入れたいなぁーって俺的には考えてる」
「おおーっ!遂にそんな所まで来たんですね、すごーい!」
結婚かぁ〜!自分の周りの人が徐々に結婚していく、そんな年齢になってきたのを自覚する。
"無事、ゴールインできるといいですね!"
と、言葉を続けようとしたけど・・・やめておいた。
脳裏に及川さんの顔が浮かんだから・・・。
(結婚がゴールって訳じゃないよね。それからも、順風満帆に過ごせたらいいけど、きっとそんなことばかりじゃないから・・・)
菅さんは、複雑そうな顔をしていたのか私の心を呼んだかのように口を開いた。
「好きな人でも、できたか・・・?」
「え・・・?」
顔を上げれば、柔らかな微笑みが私を捉えている。
「じゃなきゃそんな顔しねーべ?お前ってわかりやすいもんなー」
はははと、歯を見せて笑う菅さん。
私、やっぱわかりやすいんだなぁ・・・
駆け引きとか、絶対できないタイプだもん。
よくドラマとかに出てくるお色気お姉さんとか、憧れるけど、差し詰め私は花より〇子のつくしタイプ。直球型なんだと思う。
「・・・・・・わかりますか?」
「何となく、な・・・?」
ちろりと菅さんの顔を見上げる。菅さんは来たアイスコーヒーに慣れた手つきでシロップとミルクを入れ、かき混ぜたものを私にくれた。
「ありがとうございます」
「妹分の心の変化なんてお見通しだよ。あ〜いいな、片想いなら、今、すっげえ楽しい時期じゃん」
ブラックでアイスコーヒーを飲む菅さんの言葉に、私は考えさせられる。
楽しいのかな、私・・・
誰よりも彼のことを知れる距離にいるけれど、
彼の心は、まだ奥さんを想っていると思う。
私の取り入る隙間なんてこれっぽっちもない・・・