第10章 summer memory⑤
ーーー・・・
カチャカチャ・・・とキッチンで物を扱う音が聞こえる。
ゆっくりと、階段を降りてリビングへ向かうと、テーブルの上に置かれたサラダ、オムレツの乗ったプレート、フルーツカクテル・・・
そしてその奥のキッチンに・・・
「・・・・・・りお?」
昨夜ボロボロだった俺を包んでくれたりおの背中を見つけた。
エプロンをつけたりおが、おたまを片手に振り返る。
「あ、起きたんだ!おはよ、及川さん」
目を丸くした。
いつもと変わらない声、
いつもと変わらない笑顔、
いつもと変わらない佇まい・・・
何もかもが普段通りのりおがそこにいたから・・・。
「え・・・?」
「なーに?そんなに呆けた顔して!先、顔洗ってきたら?」
「いや・・・」
「じゃ、早く座って?一緒に食べようよ」
りおに言われるまま、いつも座る席へおずおずと腰を下ろす。すると、サラダが、プレートが、炊きたてのご飯や味噌汁のお椀が次々と目の前に置かれる。
俺はそれらといつものように朝食を作ってくれたりお・・・交互に見た。
「・・・なに?」
きょとんと首を傾げる、りお。昨夜の俺の腕の中にいた時の、女の顔をしてたりおとは打って変わって、いつもの、サバサバとした顔つきだった。
「お前さ・・・」
「ほら、折角ご飯も炊きたてなんだし、食べて食べてっ」
そう言って、箸を渡してくれる。
「・・・・・・・・・」
持たされたお椀と、お箸。
「食べないんだったら、貰っちゃうよ?」
「・・・食べるし」
りおの催促のもと、俺は豆腐とわかめの味噌汁に口つけた。
・・・・・・・・・・・・
一口、喉を通らせると口を開いた。
「・・・・・・しょっぱ・・・」
「えっ、うそ!」
驚いたりおの表情が、滲む。
「・・・え、及川さん・・・?」
目頭から溢れた液体が、
ぱたぱたとテーブルクロスに染みを作る。
「しょっぱいし、・・・ほんと・・・」
涙の混ざった味噌汁やご飯を食べる手が、止まらない。
くそ、美味しいってか・・・
優しすぎんだよ、お前・・・