第9章 summer memory④
りおside
ーーー・・・
"話あるから、部屋、きてくんない?"
いつもの口調で、及川さんは言った。
食器を片付けて、こくんと頷いた。歯を磨いて、夜中だからパジャマで、すっぴんで(まぁこれはもう全然、気にしてないんだけど)
私は及川さんの部屋を訪れた。
布団が一枚敷かれた和室。
あの日から、あの夜から・・・何も変わっていない。
及川さんは、布団に、私は座布団に正座して座り、沈黙が二人を埋めた。
・・・・・・・・・・・・
何分何秒経っただろう。
お互い、目も合わせなくて、俯いて・・・
「「あの!」」
そして、同時に口を開いた。
視線がやっと交わる。
相変わらず、彼の瞳は綺麗だけれど・・・
どこか、戸惑っていた。
何から話そうか、悩んでるんだろうな・・・
指輪嵌めてないと結婚してるってわかんないでしょ!とか、
あんな雨の中傘も持たないで風邪ひくでしょ馬鹿!とか、
叔母さんにも連絡しないでどんだけ心配かけてんのよ!とか、
言いたいこと怒りたいこと、山ほどあったけど・・・
「お先に、どうぞ・・・」
私は彼の言葉を待った。
及川さんは、目を伏せる。長いまつげが僅かに震えている。
「体は・・・平気だった?その、結構強い力で腕とか掴んだから」
「うん・・・平気だよ」
すっかり痣の無くなった手首を見せる。するとほっと息をつくのがわかる。
「ごめん、ほんと・・・」
素直に頭を下げる及川さん。その言葉に、色んなごめんが含まれていることがわかる。
酷いこと言って・・・
酷いことをして・・・
結婚してるのを黙っていて・・・
2週間も家に帰らなくて・・・
わかる。わかるからこそ、
「私も、ごめんなさい・・・」
私も謝りたい。
「岩泉さんに、聞いたの。全部。簡単に踏み込んでいい話じゃなかった。及川さんの心の傷を、私が無理やり見ようとしたって、そりゃあ拒絶するよね」
「・・・いや・・・・・・」
珍しく歯切れの悪い及川さん。図星なんだよね。