第9章 summer memory④
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実家を出てから、2週間後、
相変わらず心の整理はつかなかったけど、岩ちゃん家を後にして(というか流石に岩ちゃんに追い出されて)2週間ぶりに帰る我が家を、外から見上げる。
リビングの電気がついている。それだけで、誰かがいると分かるだけで、心が少しだけ、軽くなる。
けれど玄関の前で、鍵を握ったまま・・・立ち尽くす。
母さんかな、りおだとしたら、なんて言おうか。
まずは、謝らないとな。
そんな事を考えていると、ガチャン・・・と鍵が開く音がした。
(へ・・・?)
中の明かりが外にもれ、その光の中から、ひょっこりと小さな頭が顔を出した。
"彼女"の好きな芳香剤の匂いじゃなくて・・・ほっとする味噌汁の匂いが鼻をくすぐる。
「あっ、やっぱり、帰ってきた気がしたんだよね!」
「え・・・?」
「おかえりなさい」
「・・・ただ、いま・・・・・・?」
「え〜、何で疑問形なの?」
二週間ぶりに顔を見たりおの表情はいつも通りで、それが俺を、この子と暮らしていた日常へと戻してくれる気がした。
(あれ・・・俺、この子に・・・・・・)
物凄く怖いこと、したはずなのに、
あまりにりおの態度に変化がなくて・・・。
「りお・・・なんで?」
俺の少し前を行き、玄関から家の中へ上がろうとするりお。
二週間前にも、ここで、こうしてこの子に同じようなことを聞いた。
「ん・・・?」
聞きたいこと、言いたいことは山ほどあった。
体に怪我してないとか、体調崩してなかったとか、結婚してたの言ってなくてごめんとか、岩ちゃんに話聞きに行ったり、あんな酷いことしたのにどうして俺のことそんな気にかけんの、とか・・・
「いや・・・」
けど、振り返り俺を見るりおの瞳に、怯えは感じなかった。
俺がりおに投げかけたい、数ある言葉を全て飲み込ませるほどの、何か芯の強さを感じた。
すると、りおは、ふっと微笑んだ。
「・・・ご飯、温めてたべよ?」