第2章 厨二病な世界
「………お……うじ……様?」
旦那?許嫁?恋人?ナイト?
────呼び表す言い方は
多々あれど
なぜにわざわざ
この場でそれをチョイスした
自称王子様(仮)よ
(ちょっと待て)
私に恋人はいない。
施設で十年以上暮らしてきて
高校からは
一人暮らしで
年齢を偽って
ガムシャラにクラブで
働いて来た。
質素な一人暮らしの生活の中に
恋人の存在はなかった
……なかったはずだ
(勝手に施設長が婚姻を結んでた?)
それでも腑に落ちない。
連絡を取っていない施設長から
そんな話は
一度も聞いたことがなかったし
一体何がどうなってこの状況にいる?
思考を巡らせていたそのとき
奥の扉がなんの前触れもなく開いた。
中に入ってきた人物を見て
また私は戸惑う。
黒い髪に
尖った耳……
……え?
尖った耳?!
仮装パーティーでも
やっているのか?
「環ぃ〜!
俺の事覚えてへんねんて。
キスで起きたのに
話しちゃうやん!」
「え……本当にしたんですか……?」
「お前がキスしたら
起きるかも言うたやん。」
おいおいおい
ちょっと納得出来ない言葉が
出て来たぞ
キスで起きた?
何の事だ?
確かに意識が戻る時に
唇に柔らかいものが
触れたような気はしたけど……
まさか……あれか?!
王子様と名乗った男は
握ってた私の手を放し
邪魔にならないように
さりげなく身を引いて
環と呼んだ黒髪の男の子に
自分の位置を譲った
男が立ち上がってたか分かったが
やけに大きな身体だ
「よかった………
目が覚めたんですね。
息がなかったので………
もう……ダメかと」
私の無事を確かめるように
要所を避けて触れながら
黒髪の彼は微笑んだ。
「あの……私、
聞きたいことがあるんですけど……」
なぜ自分が助かったのかとか
ここはどこなのかとか
あなた達は誰なのかとか……
色々聞くことがある
───であるが、
とにかく第一に
はっきりさせなければならないのは、
「この人、
私の王子様だって言うんだけど…
それは何なの?」
何を置いても、まずこれだろう。