第11章 ダーリン私に
「有、待ったか!?」
秋也は手をブンブン振りながら、小走りで有に近づいてきた。
「ふふ、今きたとこ」
ショッピングモールの入り口に立つ有がニコニコと笑う。
「映画何時からだ?」
「14時半から。軽く何か食べてからいく?」
「有、何食べたい?」
「秋也くんが食べたいものでいいよ」
秋也はじっと有を見つめた。
初めて身体を交わしてから1週間。有が変わるかと思っていたが、こうして話していると何も変わっていない。
相変わらず人目を気にする感じで生きている。
秋也の視線に気づいた有は、なあに?と笑顔を向けた。
「有の行きたいところに行きたい」
「ワガママだなあ〜、秋也くん」
「オレは有にワガママ言われたい」
ぶつくさ言う秋也が何に不満を持っているのかは、有にもわかっていた。とにかく秋也という人間は、有が甘えて駄々をこねて本音をぶつけてくれるのを望んでいるのだ。
そんな秋也の方がよほど駄々っ子だ、と有は思った。
「あのねえ秋也くん、そんなに急に変われないから」
「そういうものか?」
「そういうものなの。私が急にワガママ女になったら、友だちとか驚くでしょ」
「でも疲れないか?」
「今までずーっとこうしてきたもの、今さら疲れないよ。それに、このいい子ぶりっ子は何だかんだで得が多いんだから。ふっふっふ」
目を細めて有が笑う。
こういう所は少し正直になったかな、と秋也は思った。
「でもね…ちょっと雰囲気変わったね、って友だちには言われたよ」
「そうなのか?」
「自分じゃよくわからないけどね」
そう言う有の目はどこか遠くを見ていたけれど、スッキリしているようでもあった。