第3章 裁縫箱
「もうすぐ付き合って1年…。別れるとしたら、そろそろかもね。今日も断っちゃったし」
有はスマホのカレンダーを眺めながら呟いた。
レストランで見た秋也の熱い瞳を思い出す。
家に来たいという彼の言葉が何を意味するか、有はわかっていた。自分と寝たいのだろう。
有はまだ秋也と身体を重ねたことがなかった。
家にあげたこともほとんどない。あったとしても昼間のみ。接触はキスまで。
今晩、友達と約束があるなどというのは嘘だった。秋也をかわすための方便だ。
将来を任せられるかわからない男と、軽はずみにセックスはしたくない。
有はずっとそう思っていた。
「男って、すぐガッツく…。きらい」
誰にでも愛想のいい有は、男からはそこそこモテた。顔が可愛すぎないのが、「ちょうどいい相手」と認識されたのだろう、と彼女は思っている。男は自分よりレベルの高い女には尻込みするものだ。
高校の頃はキスすら渋った。そんな有に「オレのこと愛してないんだろ」と、いつも男は離れて行った。
恋だの愛だの、アテにならない。結局男は、身体を許さない女など簡単に捨てるのだ。秋也くんだってきっとそうだろう。そうでない保証はどこにもないのだ。
そう思っていた。