第2章 筆記用具
秋也の存在には入学式のときから気づいていた。見た目がよいだけの男なら、そこまで気にかけなかっただろう。
だが秋也は性格も明るく前向きな好青年だったし、何より頭がよかった。
講義のメモをプリントの裏に適当に書いているのには驚いたが、そもそも頭がよいので必死に板書する必要がないのだ、と有は気づいた。
この人は、将来出世してお金を稼げる人かもしれない。この人となら、勝ち組の人生を歩めるかもしれない。
そう思った。
秋也を観察しているうちに、派手目の女子が好きではなさそうなことに気づいた。露骨な近づき方はしない方がいいだろうと思い、さりげない接触の機会を待った。
秋也が筆記用具を忘れたことで、その機会は訪れた。
有はそれまでにも何度か、偶然を装って秋也の近くの席に座ったことがあった。だが秋也はあまり周囲に気を配るタイプではないので、有に気づいていなかったようだ。「ペンなら貸してあげる」と話しかけてきた有に、完全に、初めて会ったという顔を向けた。
「たまたま隣に座って」「たまたま筆記用具も余っているから」と、彼にシャープペンシルと消しゴム、それにライン引き用の赤ペンまで貸してやった。
秋也はとても喜んだように有には見えた。
少しずつ仲を深めて行こう、時間がかかっても構わない、と思っていたが、予想に反して秋也の方が有に惚れてしまったため、話はトントン拍子に上手く行った。
とはいえ、付き合いだしてから、秋也がたまに常識はずれな行動をとることに気がついた。その度に心の中でため息をつくことになった。
いい人ではある、間違いなくいい人だろう。
しかし、ソツなく安定した人生を送りたいという自分の希望にかなう人かどうかは、わからなかった。