第2章 筆記用具
食事を終え、2人はモールを出た。
月が雲にかくれた空はひどく暗い。寒風が痛いほど冷たかった。
有は買ったばかりの手袋を取り出し、手にはめた。
「どこかの店に飲みに行くのか?それとも家飲みか?」
秋也が尋ねる。
「あ…お店に行くの。駅の方」
「なら、駅まで送ろう」
「えっ?いいよ、悪いよ」
秋也くんの家は逆方向だから…と断ったが、秋也が送ると言って聞かなかったので、結局2人で駅まで行った。
ザワザワとした雑踏。駅の周りは帰宅しようとする人や、飲み場を求める人でごった返していた。
「じゃ、また明日な。2限が同じ講義だから会えるよな」
「そうだね、ふふ。また明日ね」
有が笑いかけると、秋也は彼女の手を取り、手袋の上からキスをした。
「…人に見られちゃうよ、秋也くん」
有は少し恥ずかしそうに辺りを見回し、困ったような笑顔を浮かべた。彼女はいつも人目を気にする。
「イヤだったか?すまん」
「ん…。いいよ」
はにかむ有に、秋也は「口は我慢したんだぞ、これでも」と笑うのだった。
じゃあな、と手を振り、秋也は人混みの中に消えて行った。
有は駅の壁に背をあずけ、スマホを取り出した。
SNSのチェック、明日の予定の確認、話題のニュースのおさらい…。
「…そろそろいいか」
もう秋也も遠くまで行っただろう。
有はスマホを鞄にしまうと、くるりときびすを返し、自宅へと帰りだした。