第19章 バレンタインは女の勝負
翌朝彼は私より早く起きていた
右手には黒と赤の箱
「おはよう」
「おはようございます」
「…………ねぇ沙夜子」
「………はい」
ゆっくりとした仕草で此方を見る彼の反応にごくりと唾を飲み込む
あれだけテレビでCMが流れているのだ
バレンタインにチョコレートを贈る意味を理解して私の気持ちに気付いたのかもしれない……
…………受け止めて貰えなくても、どうか拒否だけはしないで欲しい………
私は祈る様な気持ちで布団を握り締める
「サンタが来たよ」
「……………え?」
「これ。今朝起きたら枕元にあったんだよね。」
「………はい」
「この間借りた本にサンタの事書いてたから知ってるよ」
彼の言葉は私の想像の範疇を超えて斜め上の方向に飛んで行く
ドヤ顔で図書館のラベルの付いた本を私に見せる
タイトルは【日本のクリスマス文化】
「サンタが来たら針で操ってやろうと思ってたのに残念………また来るかな」
「………さぁ」
「沙夜子には無いんだね」
どこか得意気にチョコレートを食べる彼に"バレンタインです"とは言い出せず
「まぁまぁかな」
なんて呟きを聞きながら
窓ガラス越しに見える青く澄んだ空をただただ見上げていた
(まぁまぁかよ…………)