第150章 転がるケーキ
彼の声だけが空っぽに成って行く私に響く
ドサドサと力無く落ちた買い物袋を置き去りに走り出す
随分遅く感じる自身の足を懸命に動かし無我夢中で腕を振る
家まで走って5分はかかる
一目も会えずに消えるかもしれない
彼を失う恐怖に力が抜けて行く身体を精一杯動かした
今朝普段と変わらず仕事に出た彼
けだる気な後ろ姿
天気予報を見ながらポツリポツリと交わした会話
あれが最後だなんて嫌だ
……………待って……………
彼の存在しない世界に私を置いて行かないで
浮かぶ汗をそのままに息を切らせる
見えたアパート迄とにかく走った
覚束無い脚で階段を駆け上がり
思い切り開いた扉の中で
最後の袋がガサリと落ちた