第150章 転がるケーキ
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「………沙夜子」
舌打ちが響く
何度目に成るか解らないコール音を聞きながら心中は焦りの色に染まる
狭い室内を見渡しながらもう一度通話ボタンを押す
すっかり馴染んだ部屋の中に異質なゲートが現れたのは5分前
其れが何なのかは理解している
一週間程前から元の世界へ帰る兆しは徐々に強まり、其れが今日なのだと確信に変わったのはつい先程の事だった
もしかしたら彼女が居るかもしれないと仕事を放り出して帰宅したが其所に彼女の姿は無く
代わりに飾り立てられた部屋
………クリスマス………愛しい人物にプレゼントを贈る日だとCMで知っている
彼女が教えてくれなくとも知る文化だが彼女は自身に教えてくれようとしているのだろう
「……クリスマス……教えて貰い損ねちゃうね。」
振り返ればあっという間だった
簡単に殺せそうだと思った女は気付かぬ内に愛しい女性に成っていて知らなかった感情を自身に芽生えさせた
毎日仕事をこなし、いつ命が途絶えても良いと思っていたそんな自身に夢を見させた
暗闇の中積み上げて来た人生に突如現れた女性は自身には無い物で溢れていて馬鹿みたいに笑い、怒り、泣き、赤く頬を染める
随分引っ掻き回された思考には彼女の姿ばかりが浮かび一目会いたいと願う
久々の仕事着を纏い仕事道具の針を仕舞った
弁当を入れている小さなバッグに彼女からのプレゼントや此方で増えた私物を詰めながらも通話ボタンを押す
開いたゲートは身体を離さす部屋から出る事は叶わない
徐々に強まる引力に柄にも無く昼休みに購入したネックレスの箱をちゃぶ台に置いた
「………出てよ……。」