第149章 リストの文字
彼が所謂市場という場所に出向くのは初めての事で時折立ち止まってはじっと一点を見詰める姿は驚く程に可愛くて私はそんな彼を見詰めていた
そしてあっという間に時間は迫りバスに揺られる
窓の外は雪の街
旅行の初日を振り返る
ワクワクと胸が弾み、いよいよ始まったのだと嬉しかった
ずっと彼に雪景色を見せたいと思っていた夢は叶い
彼がやって来て直ぐに作った"イルミさんとやりたい事リスト"はいつの間にかボールペンの横線だけが並んでいて全てやり切ったのだと思うと悲しくて仕方がなかった
横線に消えた花見や海水浴、それらは全て思い出となって私達の中に眠る
だけど、何度花見をしたって同じ景色では無いし何度海に行ったって同じ出来事は無い
彼とやりたい事リストは何度だって彼とやりたい事なのに……
リストが全て消えたって他にもまだ沢山やりたい事はある
海が好きに成った彼に湘南の海を見せてあげたいし、歴史的なものならば奈良の大仏や原爆ドーム、自然ならば大山や高千穂だって素敵だ
彼と行きたい景色はまだ世界に溢れているし
彼とスポッチャに行きたいデ○ズニーランドに行きたい乗馬だってしてみたい………なんて挙げ出したらキリが無い
スケジュール帳に挟んでいた紙に書かれた北海道旅行の文字は最後に残っていた文字で
そこに棒線を引けばリストは無意味な紙に成った
そんな私を隣で見ていた彼は只静かに視線を逸らして見ていなかったフリをする
身が裂かれそうに痛くて今にも涙が溢れそうになりながらも忘れたくない今を目に焼き付け様と窓の外を眺めれば銀世界が広がる街は無情にも遠くなっていた