第148章 北国最後の夜
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沢山建ち並ぶ温泉ホテルの中から私が選んだのはホテル○苑
現在地から近いという安易な理由で選んだのだが思いの外立派なホテルで貸し切り家族風呂なんてものまで完備されていた
しかし彼と混浴する気は更々無いので普通に大浴場の前の暖簾で彼とは別れた
早速衣服を脱ぎ払い扉を開けば想像より遥かに大きな浴槽から温泉特有の硫黄の香りが立ち込めていて胸が弾む
内風呂の湯船は源泉かけ流しになっており肩までしっかりと浸かればさらりとした温泉が身体を包んだ
辺りを見渡せば人は疎らで広々としており湯船の数も多いために大きなお風呂を独り占めしている気分に成る
首元迄しっかりと湯をかけた後に身体から湯気を上げつつ外へ出れば雪の積もった庭が素敵な雰囲気の露天風呂が広がっていた
「………やったー貸し切り……」
なんて小さな呟きは水音に消えて
これだけゆったり出来るなら彼もそれなりに楽しんでいるんじゃないかなぁなんて想像したりした
潮風で冷えた身体はすっかり暖まり待ち合わせのロビーに出れば彼は既に待っていた
長い脚を組んで質の良さそうなソファーに寄り掛かる彼は凛としていて何処か冷たい印象を受ける雰囲気を漂わせており作り物の様に整った容姿は雑踏の中一際目立っていた
私はそんな彼に真っ直ぐに近寄り隣に腰を降ろす
「良い湯でしたね!」
「うん。」
「男湯混んでませんでしたか?」
「平気だったよ。お陰で雪の露天風呂に入れた」
「良かったです!」
「うん」
何処か満足気な表情に自然と頬が緩んで私達は暫くそのまま会話を弾ませた
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旅行もいよいよ明日で終わってしまう
そんな私達が最後に宿泊するのは今までで一番大きなホテルだった
この様子だと彼は絶対に大浴場は使わないだろう……外湯に浸かっていて良かったと思う。