第148章 北国最後の夜
そして彼の歩くままに隣を歩き雪で白い公園を抜けた先には津軽海峡が広がっていた
「おー!イルミさんここ有名な海ですよ!」
「津軽海峡でしょ」
「はい!流石イルミさん!」
強い潮風は身を切る様に冷たく頬を撫でて髪を拐う
「有名な歌もあるんですよ!」
「……どんな歌?」
なんて言いながらベンチに腰掛けた彼は艶やかな黒髪を靡かせながら歌う様に促すので恥ずかしながら一番をアカペラ披露した
彼の拍手を聞きながら頬が熱いと感じるのは歌う私を見詰める彼の表情が穏やかで美しいものだったからだろう
その後ラーメン屋さんで函館名物塩ラーメンを堪能した私達
せっかく湯の川温泉にいるので日帰り温泉へ行こうと提案したのだが
彼はあからさまに嫌そうに眉をしかめた
「湯の川ですよ?温泉ですよ?」
「…………。」
彼の無言はその表情から拒否なのだと見て取れる
しかし私は怯まなかった
以前入浴した温泉で私の肌は劇的な変化を遂げた
というのも翌朝の化粧乗りが格段に良く、下地化粧品は普段の半分程で事足りたのだ
その時私は人生で初めて温泉の効能を感じた訳だが
あの感覚を味わえる機会が目の前にあるのならあやかりたいと思うのは当然だろう
「お肌スベスベになりたいんです!」
「十分じゃん。」
「もぉ!そんな事言うても私が浮かれるだけですよ!」
「…………。」
普段ならば彼が不機嫌に成ることを避けて引き下がる私だがここぞとばかりに駄々をこねた甲斐があり日帰り温泉への入浴許可を貰う事に成功した
大浴場が嫌だと言って昨夜も部屋のシャワーで済ませた彼
折れてくれる彼はやはり優しい
そしてもうひとつ
「外湯出来るホテル載ってるけど何処にする?」
彼はそうと決まれば一切の不機嫌を見せず気持ちが良い性格だと思う
「ここにしませんか?露天風呂!」
「良いよ。」
「ありがとうございます!」
「どういたしまして。」
普段なら 別に と返ってくる場面で どういたしまして と返す辺り彼らしいと思った