第148章 北国最後の夜
今まで生きてきた人生でソフトクリームを食べてそんな事を考えた事は微塵も無かった
そんな私をそうさせたのは彼の表情に他ならずみるみる頬が染まり行くのを感じて私の心中はソフトクリームを食べる所では無くなってしまった
「はい!あとはイルミさん!」
慌てて差し出したソフトクリーム
「…………まだ半分じゃないけど」
確かにそうだが私はもう食べ進める勇気が無かったので有無を言わさずに彼に手渡した
「…………。」
「顔真っ赤だよ」
「~っ!!!暖房が暑くて……」
「ふーん。」
彼の真意は謎のままだがすっかり無表情に戻った彼は黙々とソフトクリームを食べてくれた
「無理してません………?」
「無理だって言ったら食べるの?」
「………いえ………」
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次いでやって来た湯の川温泉では大幅な自由時間が与えられ散策マップを片手に歩き出した私達
日本でも有数の温泉郷である此処は津軽海峡に面した海岸側と松倉川沿いに温泉ホテルや温泉旅館がつらなっていて雪景色の温泉街は雰囲気も抜群だ
大勢の観光客で賑わいを見せる通りを歩けば何処からか立ちこめる湯煙が目に付いた
「足湯があるみたいだよ。」
マップを開き見ていた彼は言うなり足湯へと歩み寄った
電停前という立地な事も相まって観光客で混雑していて足湯中の視線が一斉に彼へ集まる
しかしそんな状況に気が付いていない様な素振りで靴を脱ぎジーパンの裾を捲り上げた彼は私より先に湯に足を浸した
キャアキャアと黄色い声を上げる女子旅らしい三人組の声が耳に付く中
「沙夜子」
彼は真っ直ぐに私を見上げて名を呼んだ
只それだけの何でもない出来事なのに先程迄の辺りの喧騒を何処か遠くに感じて
大勢の人の中で彼は私だけを見ているのだと思うと込み上げるのは幸福感だった
隣り合って水面を揺らせばその温かさが染みる様に足に広がった
「あったかーい!」
「ね。」
無表情に見下ろされた水面をチャプチャプ揺らせば湯煙が上がる
先程迄気になっていた人の目はいつの間にか忘れていて
彼と二人穏やかな時を過ごした