第147章 彼との時間
「沙夜子」
「………はい」
グラスに落としていた視線を上げれば目が合う最中
「………まだ大丈夫だよ。……まだ一緒に居られるから」
「っ…………」
彼はいつ居なくなってしまうのだろうか、もしかしたら今日かもしれない
なんて考えは彼に見透かされ
言葉を失い、只溢れそうな涙を堪えて俯いた私に彼は「泣かないで」と優しく言った
その後ツアーに戻った私達は無言だった
別に気まずい空気なのでは無く何となく話していなかった
証拠に繋がれた手はずっとそのままだ
バス内には五稜郭観光の思い出にそこかしこで花が咲く中私達を包むのは静けさだった
カフェでの会話
まだ一緒にいられる。とはどのくらいの期間なのだろうか……
彼が何も言わない辺り、はっきりと解らないのかもしれないし「もう少しなら」と言わない分もしかしたならば私が怯えなくとも時間はあるのかもしれない……
なんてポジティブに考えてみる
彼は「泣かないで」と言ったのだ
押し付けがましい言葉では無く心に寄り添う様な響きに今にも零れそうだった涙を堪えた
鬱陶しいだとか面倒だとかの感情が一切含まれていない言葉を単純に受け止めたかった
そんな時
「次は函館元町だよ」
なんて窓の外を眺めた彼の瞳は夕焼けに染まっていた
次いでやって来た函館元町
橙色に染まった街をツアーの最後尾から眺める
函館の街の中でも
旧函館区公会堂、ハリストス正教会等の建物が点在しレトロな木造建築が立ち並ぶ通りだ
可愛い雑貨屋さんなんかが目に付くがツアーガイドさんの誘導があるので立ち寄る事は出来なかった
淡いブルーやクリーム色に塗られた木造の建物は何処から見ても日本家屋では無くジ○リの世界に出てくる建物の様で外観を眺めているだけでも楽しかった
そして全く興味は無かったが黒船で有名なペリーの全身像を皆で眺めた
なんでもペリーの全身像は日本に二ヶ所しか無い大変貴重な物なそうでお年寄り達は大変楽しそうだったが私達は遠くから写真を撮っただけだった
そしてやって来た某CMで有名な八幡坂
函館の街は坂が多く長く真っ直ぐな道は北海道の広さを実感させる
そしてその坂の先には広大な海が広がっていた
広い道幅とレトロな建物からは異国情緒が漂い散策するだけでも楽しかった