第147章 彼との時間
4月なら園内のソメイヨシノが一勢に咲き誇り、花見の名所でもある風景は春を待ちうっすら雪を積もらせた木々が並ぶ何処か寂し気な雰囲気を漂わせる
そんな中私は彼の手をしっかり握って彼の横顔ばかり見ていた
前を真っ直ぐに見据える瞳はチラリと此方を向いて私を簡単に高揚させる
「何。」
「……いえ………」
なんてぎこちなく笑えば彼はコーヒーを飲もう、と提案した
公園を出て辺りを散策すればお洒落なカフェを見付けて入店する
静かな店内には私達しか居らず頼んだブラックコーヒーとミルクティーの氷の音だけがカラカラとグラスにぶつかって響いた
近くには五稜郭タワーもあれば資料館もあるのだがそれらの施設に彼は全くの興味を示さなかった
(………イルミさんそういうの好きやと思うねんけどなぁ………)
なんて考えながらミルクティーを飲んでいると
「沙夜子」
彼は不意に私の名を呼んだ
彼の声が妙に響いて感じたのは店内が静かだったからに他成らないが
私はきっと彼の言葉を待っていたのだ
先程から僅かな違和感を感じる
復元にせよ歴史的建造物が好きで資料館なんかは情報収集が好きな彼の好奇心を煽る筈のスポットだ
なのに彼は立ち寄ろうとせず自由な観光時間の今この時に突然コーヒーが飲みたいと主張した
彼のマイペースはいつもの事だが私は感じる違和感を隠せずにいた
「落ち着きが無いね。」
何時もの声色で指摘され
そわそわと組み変える脚に気が付く
「………いや、………イルミさんが………」
「俺が何」
「何時もと………違うから……」