第147章 彼との時間
幕軍と官軍の最期の戦いである箱館戦争の舞台となったことでも有名な地だが
綺麗に整備された園内には激しい戦いがあったとは思えない和やかな雰囲気が漂い地元の人々の憩いの場に成っていた
ガイドさんに連れられて最後尾を歩く私達にはその説明はさっぱり聞こえないが点在する立て看板だけでも十分勉強に成る
「………此所……本で読んだ。」
立て看板の文字を読み私達が立っている土地が一体どういう場所なのか理解したらしい彼は単調に言った後に
「……新撰組」
なんて呟きを落とす
いつの間に歴史分野の本を読んだのか考えるが彼は図書館から手当たり次第に借りていたのか何なのか読書する彼が手にしていた本はジャンルに纏まりが無かった様に思う
何も知らず訪れるより前情報があった方が観光は格段に楽しく成るだろう
興味深気に顎に手を添えて風景を眺める彼の横顔を盗み見ながら自然と頬が緩む
そして唐突に訪れた自由行動
別に唐突という訳では無いのだろうがガイドさんの声も届かない最後尾にいた為に同じツアー客が突然各々歩き出した様な状態に陥っている
自由行動は一体何分間なのか、集合場所は何処なのか全く把握しないまま立ち尽くす私に
「一時間半だって」
彼は髪をかき上げながら言った
常人には微塵も聞こえないガイドさんの声を彼はしっかりと拾っていて
私の手を掬い指を絡めながら
「奉行所はあっちだって」
なんて瞳を輝かせながら言った
暫く歩けば復元建築された函館奉行所が見えて彼は繁々と眺めた後にクリっと首を傾げる
「どうする?入る?」
「イルミさんが入りたいなら!」
見上げれば彼は私を真っ直ぐに見詰め
「……別に良いかな。本で色々読んだしこの場所を見られただけで満足。散歩でもする?」
なんて淡々と言った
この旅行で自身が楽しみたいと思うのは当然だが彼の意思を出来る限り優先したいという想いが強いのは仕方がないと思う
そして私が彼の散歩の案に素直に頷いたのは
彼からのお誘いなら、彼と一緒に歩けるなら私は幸せだと思ったからだった