第146章 雪山と彼の腕
「イルミさんは屈強ですね!」
「普通。」
なんて涼しい表情で応える彼の横顔に胸がキュンとする
誰が彼を見てこんなに屈強だと思うだろう
裸の筋肉を見たならばそのギャップに驚く事は間違い無いが
グレーのコートに身を包みマフラーを巻いた彼は何処から見ても優男の類いで力強いガテン系には見えないのだ
それなのに私を引き上げながら階段を登る彼は余裕を漂わせていて……
「ギャップ………萌え」
思わず呟けば
「ギャップ燃え。何それ。」
彼は聞き慣れない言葉とばかりに復唱した
「ギャップですよギャップ!」
「ギャップは解る。燃えって何。何が燃えるの」
「………心?ハート?!」
かなり身体に余裕が出来た私は彼に激萌えしている興奮をそのまま口にしたのだが
「…………。」
私の顔をチラリと見た後に彼は可憐なスルーを決めた
(……お澄ましさんめっ!)
なんて私が思っている事を知られたならばきっと彼は怪訝な表情を浮かべていたに違いない………
長い階段を経て到着した火山口を見晴らせる展望台には丁度脛位まで雪が積もっていて彼の腕に掴まりながら進んでいるのだが……
「めっちゃ吹雪いてません?」
山頂近い展望台には横殴りの雪が吹雪いていた
先に到着していた他のツアー客等もいて賑わってはいるが
肝心の火山口は微塵も見えない
……あの長い階段は何だったのか……
「見えない。」
強い風に瞳を細めて空いた片手で髪を抑えた彼はポツリと呟いた