第146章 雪山と彼の腕
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次いでツアー御一行でやって来たのは昭和新山
昭和18年に地震と噴火で出来た山だそうで間近に火山口を見られるらしい
噴火で出来たというだけあり特異な形が特徴的な山なので眺めるだけでも十分なのだがせっかくなのでオプション観光を頼み間近で火口を見てみる事にした
未だ山からは噴煙が上がっているのが見てとれるのだ
間近で見たら迫力があるに違いないとの私の提案に彼はすんなり了承してくれた
山頂付近迄伸びるロープウェイに揺られる
彼はロープウェイに乗るのは初めてで最初こそキョロキョロしていたが今は窓から懸命に外を眺めていてその背中がびっくりするくらいに愛くるしい
これだけでオプション料金を払った価値はあると思ってしまう私は脳内が彼一色に染められてしまっているのだろう……
「何が見えますか?」
「駐車場。」
駐車場をそんなに眺めて何が楽しいのか疑問に感じたが可愛いので言葉にはしなかった
ロープウェイから降りると立てられた地図を頼りに歩き出した私達だったが雪の積もる狭い道は思いの外アップダウンが激しかった
ずっと続いている様に感じる階段に完璧な防寒は汗を浮かばせる
「し、しんどいですね……」
「運動不足だね。」
短く息を吐き雪山に似合わない汗を浮かべた私とは対照的に彼は涼しい顔で階段を登って行く
オプション観光の時間は45分
火山口迄行って折り返し、ロープウェイでバスに戻ると丁度そのくらいの時間に成る様なのだが
私の無さすぎる体力はもう火山口に行きたく無いとすら思わせる
余裕の歩みで登って行く彼に並んで階段を踏み締めていると彼は不意に手を差し出した
「掴まって。」
単調に発された声
見上げればこれまた無表情な顔
しかし手をぎゅっと取れば力強く私を引き上げてくれた
「あ、ありがとうございます……」
「別に。少しは楽でしょ」
階段を登るタイミングで私を引き上げる彼に必死さは勿論無く
先程とは比べ物にならない程楽に段差を登れる辺り私の体重の殆どを彼が其の腕一本で引き上げてくれているらしい