第146章 雪山と彼の腕
「沙夜子」
考え込む私の耳元に彼の声が聞こえて驚きの余り肩が跳ねる
「………?!はい!」
そんな私に彼は少し得意気な表情を浮かべた
「見て無かったでしょ。今キツネがいたよ」
「うそ!!見てない!!」
「また歩いてるかもしれないよ」
「ですね!」
再び彼と窓の外を眺め始める
彼は今を楽しんでいると感じた
それならば私だって今を精一杯楽しもうと思った
________"
次いで到着したのはオロフレ峠
広い路肩に停車したバスから降りればすっかり晴れた青空に照らされて幻想的な樹氷が一面に立ち並んでいた
「おぉ!」
思わずテンションと共に歓声が上がる
枯れた樹木に真っ白な花が咲いた様に樹氷は太陽光に照らされてキラキラと輝いていた
「凄いですね!初めて見ました!」
「うん。」
ガイドさんの話しでは毎年見頃は1月からなのだそうだが昨夜から雪が降り、冷え込んだ事で運良く見られたらしい
目の前の白銀の森を見渡し、本当に運が良かったと思う
其々形の異なる木々は樹氷もまた違っていて力強く立派なものから儚く可憐な印象を受けるものと様々で時間一杯見て回った
私の後を追うように背中を付いて回っていた彼だったが振り返って見た表情は何処か楽し気に見えた
樹氷と彼のツーショットは溜息が漏れる程の美しい出来栄えでバス内で彼に見せれば
馬鹿みたいに口を大きく開いて笑う私と樹氷の隠し撮りをみせられた
「えー!変な顔!消してくださいよ……」
「沙夜子はいつもこんな顔だよ」
「…………。」
彼には私は馬鹿みたいな顔に見えているという衝撃の事実が露見したが
私にカメラを向けてくれたのだと思うと嬉しかった
彼が眺めた景色が形に残るのだ
そして彼の眺めた景色に私は居るのだと思うと其れだけで先程の馬鹿顔も悪くないと思えた